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ワクワクリベンジ読書のすすめ~『箱男』安部公房著~

いったい何が書いてあるのか。何を伝えたいのか。
一読しただけではなかなか理解できない。独特の世界観というか、奇想天外な、混とんとした中に安部公房の主張があるのだろう。この世界観、ちょっと村上春樹に似ているようにも思う。
ただ、こうしたとらえどころのない作品は、個人的には大好きだ。『砂の女』でも感じたが、作品にあるアブノーマルな世界に浸ることは、どうも理路整然とした思考回路を持たない自分にはフィットしているらしい。『砂の女』読了後に近隣の書店へ行き、棚にある安部公房の作品(15作品が並んでいた)はすべて購入した。
とはいってもまだ安部公房の作品を読むのは、今回が2作目。
そんな中で感じているのは、「どう感想文としてあらわしたらいいのか悩む」という読者泣かせであるということ。それが逆に大きな魅力であると思う。
 
『箱男』について考えると、この作品から浮かび上がってくるのは「異常な人間観察癖のひとつの形態」であり「観察される側の異常性」ということなのだろうか。
「箱男が専門の覗き屋なら、彼女は天性の覗かれ屋なのである」(新潮文庫P122)。
理解に苦しむ表現ではあるが、ここはまたいわゆる安部公房ワールドならではなのだろう。
そういえば、主人公はカメラマンが職業。究極の「覗き屋」であるとも言える。
 
また映画化された作品のPR動画で「完全な孤立、完全な匿名性。一方的にお前たちを覗く」とのやや変態じみたコピーがあったが、閉鎖空間の中で人間観察するという意味において、真っ暗闇の中で夜な夜なネットをチェックしまくるオタク的存在(もっと別の言い方もあるのだろうが、適切な表現を思いつかない)が、現代の「箱男」なのかもしれない。案外身近にいそうで恐怖すら感じる。
 
また、箱男のイメージから思い出したことがある。学生時代、飲み過ぎて終電を乗り過ごした友人が、学校の近くにある神社(穴八幡神社)の軒下で、段ボールに包まって一晩過ごしたらしい。彼いはく「段ボールは温かい」とのことだった。
さらに言えば、段ボールを被ることで気密性が高まるので保温性はあるのだろう。夏はどうするのかとも思ったが、作品の中で箱男の資格要件ともいうべき興味深い表記があった。
「もともと汗っかきだったはずのぼくが、その夏の終り頃にはもうほとんど汗をかかなくなっていた。汗をかいているあいだは、まだ贋箱男だということだ」(P188)
汗をかかないこと。覗きを専門とする箱男になるのもひと苦労なんだな、と感じた。
ん~、これ以上、感想文は書けない。限界だ。


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