高次脳機能障害「私」のマイクロツーリズム~目から鱗が落ちる~
このコーナーは重度高次脳機能障害当事者(重い知的障害、ADL全般の障害、特に失語症で思うように意思表示できない)の家内(=「私」)の気持ちを、夫である私(=たまさん)が推測し、家内の視点に立ち家内の言葉で書いたものです。
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「目から鱗が落ちる」。
おまえ意味知っているか。
昨日、突然、たまさん(=わたしのだんな)に尋ねられた。
ことわざの意味は、「新たな事実や視点に出会い、それまでの認識が大きく変わる状況を表す表現」(実用日本語表現辞典)とのこと。
どうもたまさん、「私」のケアサポートの件で、とてもショックを受けたことがあったらしい。
「これでよし」と思っていたことが、実は大きな思い込みであったことを自覚ようだ。しかも立て続けに。
そもそもたまさんは「思い込みの塊」のような人。
「私」はそんなに驚かないが、本人的にはショックが大きかったらしい。
どういうことかというと、
最近、「私」の嚥下機能が低下してきたせいか、
食事中に強い咳き込み、そしてゲボ(嘔吐)が続いている。
たまさんからは「咳をするな! ゲボするな!」と。
ゲボしようものならものすごく怒られた。
しかし・・・・・・・
訪問看護師さんによると、
「咳き込みや嘔吐という反応があるだけまだまし。まずはそう考えるべき。聴診器をあてても問題ないし。怖いのは反応がなくなり視点が定まらなくなると『誤嚥性肺炎』が疑われるから」。
たまさん無言。
そして食事介助していただいたヘルパーさんから。
「食事中に嘔吐しそうになったら口からだすこと。そもそも痰が絡みがち。それを我慢したり無理して飲んではだめ。まず吐き出して口内をすっきりさせて食事をすすめるように」。
たまさん、・・・・・・(同じく無言)
たまさん自身、ケアサポートについていろいろ勉強しているし、資格もいくつも取っている。
だから相当の自信をもって「私」のケアをしてくれている。
それが、信頼できる実務のプロの方から次々とダメだしを受け、落ち込んでいる。
「他にも間違ったやり方をしているかも・・・・・・」とつぶやいていたのを「私」は見逃さなかった。
ちょっと自信喪失気味?
と思いきや、そんなことはなかったようだ。
「知ってるか?」
「こういうこと(=先入観・固定観念で誤った認識をしてしまうこと)を、心理学的には『認知の歪み』というんだ」
「『目から鱗が落ちる』とは『認知の歪み』を表す言葉でもあるんだ」
そう、うそぶくたまさん。
なんと立ち直りの早いことか。そういう意味ではこの人はすごい。
ま、そのメンタルには敬意を表したい。