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ワクワクリベンジ読書のすすめ~『赤ひげ診療譚』山本周五郎著~

江戸時代中期の小石川養生所が舞台。Wikipediaによると、小石川養生所は、享保から幕末までの140年あまり貧民救済施設として設置された無料の医療施設とのことである。
作品の内容は、長崎での修行から戻った医師・保本登と、「赤ひげ」と呼ばれる医長・新出去定(実在した江戸の町医者・小川笙船がモデル)を主人公に、貧しい暮らしをしている患者との間で起こる出来事を描いた作品である。
全8篇から構成されているが、それぞれに共通しているのは、去定の「貧困と無知に対する強い姿勢」である。
「まずやらなければならないことは、貧困と無知に対するたたかいだ、貧困と無知とに勝ってゆくことで、医術の不足を補うほかはない」(新潮文庫P60)。
その背中に保本も影響を受ける。世帯を持つ身となりながらも、目見医への異動話を断り養生所勤務にこだわる。そして、最後には目見医に推挙した去定と養生所に固執する保本との間で口論になる。推測の域をすぎないが、去定は強い口調で保本を叱責しながらも、本音では「自分の分身ができた」ことに喜びを感じていたのではないだろうか。
 
世間一般に言われる「赤ひげ」のイメージは人情話が先立つ。しかし、その背景には社会に対する強い怒りがあると感じた。弱者には優しいが権威には厳しい。それが「赤ひげ」なのだろう。
貧困に対する幕府の無策に対して。身売りされた女たちを扱う無常で冷酷な娼家の主人たちに対して。自らの欲望のために子どもを食い物にする親に対して・・・・・・。この作品の8つのエピソードにはみな怒りがある。
帯POPなどではこの作品を「医療小説」としていたが、むしろ「社会小説」ではないか。
辻邦夫が巻末に記した「山本周五郎を読む」の中で、山本周五郎を「生得的小説家」としている。「感情を荷電した出来事に対して本能的に魅惑され、それ以外の伝達方法を持たないまでに、それと一体化した小説家」(P401)と解説している。
ここでいう「荷電された感情」というのが、社会に対する怒りであると考える。
 
「社会的弱者にもっと温かいまなざしを!」。
山本周五郎は、この作品を通じて、現代社会にも訴えたかったのではないだろうか。

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