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「勇者」は半分でも断った
タイには自動車メーカーがない。
バンコクの街中に出て周りを見渡すと、ニュートラムはあるし、高いビルも建っているし、高級なブランドショップも沢山ある。
たしかに、少し脇道に入れば、確かに発展を置き去りにした平屋、限られた流通の中で完結できる個人商店、路上でたむろするひとびと。
とは言え、
日本との経済格差がどうしてこうも大きく広がるのかがいまいちピンと来なかった。
自動車の開発には多大な労力がかかる。
設備も必要だ。試行錯誤もいる。
日本は1900年代初頭に車を作りはじめ、売り出し、その利益を以て研究開発に投資し、新たな自動車を開発し、また売り出し、利益を出し、成長した。
上手く世の中の需要に合ったという事もあり、日本の自動車メーカーは国内の経済循環から利益をつかみ、成長し、欧米諸国を性能面、売上面、シェアとあらゆる面で抜き去った。
今では世界有数の自動車大国であることは周知の事実だと思う。
長い年月の積み重ね。
100年間で積み上げられた知見や設備、そして信頼。
タイには自動車メーカーが無い。
というか、世界の多くの国において、自国で世界に通用する自動車メーカーを有する国はほとんどない。
広義での利権に固められて、参入する事が出来ないのである。
ゼロから開発して、市場に売り出すとして、そのコストは非常に高い。しかも品質は低いだろう。
先行して洗練された輸入品と比べたならば、全くもって費用対効果で太刀打ちできない。
日本には100年という期間があった。
少しずつ市場から利益を上げて、それを研究開発に投資して、少しずつ売上を増やし、少しずつ成長した。
買い手の成長と共に、メーカーが成長できた。
そしてメーカーの成長は買い手のニーズを更に押し上げたと言える。
貿易において、他国の製品を取り入れることはたやすい。
国の収益という観点からすれば、関税での収益も見込めるので、自国の経済成長と共に他国の工業製品を取り込むことは有効だ。
このような事情から、発展途上の国々においては、たいてい他国の製品に触れることで買い手のニーズは押し上げられてしまう。弱小メーカーが成長する過程を踏めなくなってしまうのだ。
産業は置き去りとなり、民衆のニーズのみ成長してしまう。
これは自動車メーカーに限った事ではなくて、あらゆる分野で同じような事が起こっている。
先に利権をつかんだ国は漫然と市場を獲得し、成長を必要とする途上の国々はその機会を得ることができない。
端的に言うと、弱国は民衆と共に成長する機会を奪われる。
すでに利権を手にした強国によって。
TPPやEPA、FTA等々。
強国は弱国に対して生殺与奪権を振りかざし、微々たる妥協で締結を強行しようとする。
勇者は半分でも断った。
2015-08-07 はてな匿名ブログへ投稿したものを修正して転記
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