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懐かしい愛おしさを連れて

夏のコンクールも終わり、部活を引退した。
朝練のために早い時間に登校する必要もなくなったけれど、変わらぬ時間に友人の家のインターホンを押している。変わったのは、毎日家に上がるようになったこと。
友人が髪を直したり身支度しているのを感じながらボーッとしたり、昨夜聴いたラジオの話をしたり、朝のニュース番組をふたりで観ながらぽつりぽつりとリアクションする。そうしてテレビが決まった時刻を映したら登校する。それが日課になった。
ある日、いつものようにふたりで朝のニュース番組を観ている時に思った。あぁ、この瞬間のこと絶対忘れない。忘れられない。と。

そして本当に忘れえぬまま思い出は、あの時のなんとも言えない満たされたような幸福な気持ちと一緒に、懐かしい愛おしさを連れてきてくれる。
先日読んだ「 変声 (作:はやしわか)」は、そのトリガーとなってくれた。そして、15歳のあの瞬間だけではない、愛おしくて忘れられるはずもないあの時をいくつも思い出させてくれた。今日もドライヤーをしながらまたひとつと思い出して、鏡に映る私は嬉しそうに笑っていた。変声がくれた幸福な余韻。



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