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#短編小説
さすらいのノマドウォーカー②
暑い…
手続きが思いのほか早く終わったことで自分らしくない冒険心が湧き、軽い気持ちで従ったせいで、今、灼熱地獄を味わっている。
30分前に戻りたい。
暦の上では夏はまだウォーミングアップしている段階のはずなのだが。フライングしてしまったらしい。
陸上競技なら1回まで許されるはずだ。スタートラインまで戻り、待機するがいい。
いや、近年、即失格に変更されたのだったか。世界記録保持者が失格にな
さすらいのノマドウォーカー③
好きな言葉は平常心、通常営業、いつも通り。
そんな自分の食指を動かしたのはドーナツ屋。
お菓子を食事の変わりにしてはいけませんという両親の教育は、社会人になって一人暮らしを始めても如何なく効力を発揮している。
食生活の欧米化が進んだ昨今でも常識から大きく外れないが、たまにならいいんじゃない?というくらいには戒めは緩んでいる。
とはいえ。
いつから日本人はこんなにドーナツ好きになったのか。
さすらいのノマドウォーカー④
「あら、そうなの…。あらあ。…そうなの」
会計待ちの最前列に並んでいた上品なご婦人が、名残惜しそうに出ていった。
お昼時ではあるが、まだ空席はある。売り切れるほどの人気メニューでもあるのだろうか。ご婦人の意に沿わなかった理由が気になるが、順番がきてしまった。
パスタとサラダ、ドリンクのセットが、コンビニで買い揃えるより安い値段だったので迷わずオーダーする。
運よくレジ前のテーブルに座れた。
さすらう…大人の対応
「ここは僕の席なんですけど」
残業続きだった今月、大きなプロジェクトがやっと軌道にのった。
ご機嫌な部長は、こんなときぐらいはとプロジェクトメンバーを早めに帰宅させてくれた。
ありがたい。
そろそろ目と肩と腰が限界だ。
まだ陽が高いうちに電車に乗るのはほんとうに久しぶりだ。
思った通り社内はガラガラで席は選びたい放題だった。西日が当たらないシートの端っこに腰を沈めると、鞄は膝の上でなく
さすらいのノマドウォーカー⑤
いつものカフェオレが苦い。
舌苔が拒絶反応をしている。全身も硬直している。
舌も喉も言うことを聞かない。仕方なくしばらくアイスカフェオレを含んだままご機嫌をうかがっていると、ますます刺激に苦しむという羽目に陥ってしまった。
頻繁に利用する、部屋から最寄駅までの道なりにあるコーヒーチェーン店。
コーヒーを売りにしているだけあって、アイスコーヒー用に特別に低温抽出していると何かで読んだことがあ
さすらいのノマドウォーカー⑥
仙道さんは室内をさっと見回すとずかずかと入ってきて、定位置となりつつあるラグマットの上に正座した。
毛足の長短で格子柄を模っているラグマットは、重いもの…たとえばお腹周りが胸囲を10cm上回る中年女性…が長時間のっかっていてもヘタれないほど丈夫であり、滑らかな肌触りかつ洗濯機丸洗いも可能という優れものだ。
寝転がって読書をするのに最適なのでお気に入りだったが、仙道さんが座るようになってからは踏