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【感想文】畜犬談/太宰治

『第二回・緊張の緩和ケーススタディ』

本書『畜犬談』読後の乃公だいこう、愚にもつかぬ雑感以下に編み出したり。

▼あらすじ:
犬嫌いの男がひょんなことから野良犬のポチを飼うことになったがある日ポチが皮膚病を発症して最悪だったけど同タイミングで引越しの話が持ち上がったのでこれ幸いと男はポチを殺そうと毒薬を混ぜた肉を与えたがなぜかポチが死ななかったことをきっかけに男は芸術化としてのあるべき姿を見出してポチを殺すのをやめてみんなで一緒に引越すことになりましたよっていう心温まるHeartwarming Story。

▼緊張の緩和について:

この話を辛辣と捉えるか、あるいは滑稽と捉えるか。私は後者の滑稽談だと思ったので以下に根拠を説明する。
まず、太宰治が多用する笑いの手法があり、その傾向として次の四つの条件を同時に満たすケースが大半である。

① 主人公(語り手)は生真面目な性格である。
② 主人公のプライドが高い。
③ 主人公はクソどーでもいいことに悩んでいる。
④ 筆致に「である調」を用いる。

上記を満たすとなぜ笑いが生じるのかというと「緊張の緩和(※1)」が生じるからである。
※1・・・このメカニズムについては過去に開催された『風と共に去りぬ』読書会における拙感想文参照。

▼本書『畜犬談』における「緊張の緩和」サンプル:

前述の手法が本書のどこに存在するのか、まあそれは全体通してそんな感じなんだけどまずはシンプルなケースを以下に挙げる。

私は、まじめに、真剣に、対策を考えた。私はまず犬の心理を研究した。

青空文庫より抜粋
底本:「日本文学全集70 太宰治集」

これは前文で「真剣に対策というフリ(=緊張)」を利かせて、次の文で「犬心理研究というオチ(=緩和)」に繋げており非常に平易な例だといえる。その他、何点かピックアップして紹介すると、まず主人公の男は作中冒頭~中盤にかけて犬を嫌う理由を延々と語っており、彼の犬に対する思いは、

青いほのおが燃え上るほどの、思いつめたる憎悪である。

日に十里を楽々と走破しうる健脚を有し、獅子をもたお白光鋭利はっこうえいりの牙を持ちながら、懶惰無頼らんだぶらいの腐りはてたいやしい根性

前掲書より抜粋

と、大そうな四字熟語を用いながら糾弾している、犬を。たかだか犬を。と同時にそんな自分自身を、

犬は、私にそのような、外面如菩薩げめんにょぼさつ内心如夜叉ないしんにょやしゃ的の奸佞かんねいの害心があるとも知らず、どこまでもついてくる。

前掲書より抜粋

とこちらも大げさに心の内を告白しており馬鹿々々しい。そして犬を殺すべきでない理由は、<<芸術家は、もともと弱い者の味方>> だからとの事で、この、アホが2秒で考えたかの様な唐突かつピンと来ない理由を恥じることなく妻に説明しており、そして妻は <<浮かぬ顔をしていた>> からの、<<やはり浮かぬ顔をしていた>>。これで一応オチが付いたせいか作者は作品に緞帳どんちょうをおろしたものと見える。

といったことを考えながら、ぼんやりしていたところ、「笑いを説明するなんてヤボはアカンぜ……」という桂米團治の声が聞こえてきた。

以上

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