【感想文】温泉宿/川端康成
『私の親父の小言』
先日、父に用事があったので部屋に入ったところ本人はおらず、仕方なく部屋を出ようとすると次の掛軸が目についた。
なるほど。流石親父、良いこと言うなあと思わず感心した。だってそうだろう、冷酒は非常に飲みやすいからついガブ飲みするとそのツケが悪酔いという形で後から回ってくるし、出掛けのタイミングでガタガタ言われるとそのことで一日イライラしてしまうし、朝から不機嫌な態度をとるヤツなんて幼稚だし、恩の損得勘定も無粋だし、我が子の訴えなんかにイチイチかまってられないし、女郎なんかにハマると本書『温泉宿』みたいに自分だけじゃなく女の人生も狂ってしまうし、例えばお滝なんかは曖昧宿の連中にそそのかされて身重にされた挙句に流産して人間不信&同性愛気味に陥って <<「ちくしょう。ちくしょう。」を胸に繰り返し>> て憤ってるけどまた別の男にひっかかりそうになってるし、お雪とお絹なんかは抑えられない見栄に身を持ち崩したし、かといってお清のように己の末路を八方塞がりと決めてかかって自殺行為に近い身体の酷使をするのはただ無残な最期が待ってるだけだし、じゃあ逆にお咲のようにハナから人生なんて捨てて自由奔放に遊びまくってしまうとこれも冷酒と同様にあとからツケが回ってくるだろうし ――――
とまあ親父の小言に従って考えてみれば、本書『温泉宿』を巡るこれらの女性達は全員が否応なく不幸である(※ただし、お滝の幸・不幸に関しては検討の余地が残るが、本書に登場するガテン系の男にまともな奴が居ないため、お滝の恋は不幸な結果を招くものと思われる)。
要するに、本書には男女問わず、自尊心、虚栄心、劣等感という業の深い俗物根性が如実である。また、ラストシーンでお咲が力一杯投げた瓶は竹に当たりガラスのかけらとなって散ってしまうのだがそれはまるで、抗えない業の前に砕け散った彼女達の残骸のようでもある。
といったことを考えながら、「次このパターン使って感想文書いたら殺すからそのつもりで。」という幻聴に私は悩まされている。
以上
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