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オープンスペースを広場にしない!板橋第十小学校×まなびぱれっとの挑戦【初めての文部科学省からの採択事業「COーSHAプロジェクト」】

板橋区立板橋第十小学校は各学年のフロアにオープンスペースがある。4年生もオープンスペースがあって、何度も何度もその姿を変えてきた。

1学期は僕の私物の学級文庫700冊を配置したことで、本が手に取りやすい環境は作ることができたが、それ以上のことはできていなかった。2学期になり授業の在り方が変わっていく中で、オープンスペースもその在り方が問われていた。最初に目をつけたのは本棚だ。本棚を本棚としてだけ使おうとするとどうしても空間が狭くなって、ただ子ども達が活動できなくなるだけになってしまう。そこで本棚を繋げて大きな机の代わりとして活用した。また本棚があった壁際に長机をいくつか置くことで、ただ本棚がある広いスペースだったところに学ぶことができるエリアを増やしていった。そして、ブックカートは廊下や教室に近い位置に配置したことで、より子ども達が身近に本が取れるようにしたり、意図的に廊下に突き出すような形で置くことで、廊下を走る人を減らしたりした。結果として、ブックカートの廊下への置き方1つにも試行錯誤があって、結果として教室の前に置いておくのが1番が本を手に取ってもらってもらえて、且つ日常の学校生活に支障が出なかった。その分新しい机を廊下の一角に置くことで、教室とオープンスペースの間を繋いで、学びの空間を連続させることに役立ったと思っている。



このいくつかの変化はオープンスペースが広場から学びの空間へと以降していくステップだったんだと思う。オープンスペースや廊下という概念から学びの空間としての学校施設という新しい概念に変わっていったんだと思う。現に、廊下でも立ちながら問題を解いている子もいれば、オープンスペースで寝転がりながら真剣に話し合う子、本棚を使って丸つけをしている子、ありとあらゆる空間が学びの空間になっていく過程だった。

ただオープンスペースを変えていく中で次の課題にぶつかった。それは座れる場所の不足だ。オープンスペースを変えていこうとするとどうしても物品が必要になる。机に変わるものは用意できたのだが、それに応えるだけの椅子やジョインマットが足りなかったのだ。物品を購入することは年間の予算の関係上厳しく悩んでいた。そこで、まなびぱれっとと板橋第十小学校が連携して次の挑戦に挑んだ。それが文部科学省のCOーSHAプロジェクトへの公募だ。

この試行錯誤は決して、4年生だけのものではない。各学年がオープンスペースをどのように使うか試行錯誤していた。しかし、2つの壁に学校全体でぶつかっていた。1つは専門知の不足だ。オープンスペースを活用した実践は多くなく、教員の知識だけではそもそもどんな風に場を作っていけばいいのかわからないという声が上がってきた。もう1つは予算の壁だ。作りたい空間はイメージできる教員もいたが、その空間を実現するための道具が足りてないのが現状であった。このままでは、翌年以降も同じ課題が続いてしまうと思い、4年生の現状も相まって文部科学省のCOーSHAプロジェクトに公募をした。



結果として、文部科学省から採択を頂いて半年間にいかない僅かな時間での挑戦が始まった。このプロジェクトの主体はまなびぱれっとにあった。今回の取り組みのポイントはオープンスペース改革に必要な情報や物品、研修は外部機関であるまなびぱれっとが用意することで、教員の負担をできるだけ少なくして、最大限の価値を生み出そうとする挑戦だったのだ。

まなびぱれっとがまず目指したのはモデルケースの作成だった。オープンスペースのモデルケースを示すことで、先生達が選ぶ形で負担なくオープンスペースの改革を進めることができるのではないかと考えた。その仮説のもとに先生達にヒアリングを行ってきた。

しかし、ヒアリングを進めてきた結果、モデルケースを作ることでは本質的な課題解決に繋がらないことが見えてきた。それは先生達の当事者意識の課題だ。オープンスペースの活用改革を進めていこうとすると、そもそもオープンスペースを使わないといけないのかという問いにぶつかる。これまでオープンスペースを使わないで教育活動を進めてきたのだから、無理に使わなくてもいいんじゃないかと思われるのはもっともなことだ。しかし、子ども達のニーズが多様化している中で、学びの在り方も問われてきている。そういう中で、日頃の教育活動の中でオープンスペースという選択肢があることで、救われる子や充実した学びを可能にしていく。いくら言葉で伝えても、頭でわかっていても活用には二の足を踏んでしまう。その一歩を踏み出す何かを作らないとモデルケースを作っても使われないという課題が見えてきたのだ。

そして、もう1つは自分達で作りたい先生がいるということだ。モデルケースを提示するとそれにしなけれないけないと思ってしまう懸念もあり、これまでオープンスペースを積極的に活用してきた人ほどモデルケースを提示することで、オープンスペースへのモチベーションが低下する可能性があった。

このことを踏まえ、まなびぱれっとはモデルケースの作成を辞めることにした。まなびぱれっととして、先生たちの教育活動を充実するために先生たちが自分達の使いたい場を自分達で作ってもらう伴走に切り替えていった。その判断を後押ししたのは研究者の先生がたのデータだ。1日かけてオープンスペースの活用実態や子ども達の学びの姿勢についてデータを取ってもらった。その結果、オープンスペースについては部分部分で活用しようとしている先生がすでにいることや意味づけを既にしているオープンスペースがあることが見えてきた。また、子どもの学びの姿勢に対して寛容で、子どもの在りたい姿に寄り添える教員が多いことがわかった。

そこで、12月に先生向けの研修を行った。そもそものオープンスペースの場とのしての意味づけの必要性や子どもの行動デザインする意義をコミュニティマネジメントの知識をもとにインプットした。その上でこれまでのデータを元に見えてきた発達段階ごとにオープンスペースの活用する方法の違いがあることから、安全性や全体での活動の多い低学年は「発表」、集団で制作したり、活動することが多い中学年は「創造」、委員会等で少人数で活動することの多くなる高学年は「対話」のコンセプトでオープンスペースを作ることを提案し、先生たちの考える方向性を伝えた。方向性を示した上で、オープンスペースの活用方法の紹介や、道具とそれを用いて子どもたちがどのように学ぶのか活用方法を紹介した。先生たちはそれらの情報をもとに自分たちの使いたいオープンスペースを考え作って
いってもらった。オープンスペースを考える中で、それぞれの学年に一定額の予算を確保し、こちらが事前に用意した道具の中で買いたいものを挙げてもらった。



そして1月に入ると物品が届き、実際にオープンスペース作りに取り掛かった。1年生は、1年生という発達段階上、広くオープンスペースが活用できるほうがよいという結論に至った。机やいすが散乱しており、思うように場を使えない検討事項を基に、「必要に応じて効果的に使える場」として、写真のような場を作った。児童が座って学ぶことや広い空間で動きながら学ぶことができるよう、広場のような場所を確保するため、特に物品は配置していない。
その結果、活動を伴う学習が多い1年生にとって、椅子や机がある教室とは異なり、学び方や学ぶ姿勢を自由に変化させながら学ぶことができるようになった。



2年生は、活動しながら学ぶことが多いため、座って学ぶこと以外の選択肢をとれるほうがよいという結論に至り、床で学習ができるような物品を購入するに至った。学ぶ方法や姿勢が限定的である検討事項を基に、「子どもが自分で選択して学習する」として、写真のような大きい丸布、ジョインマット、クッション等を用いて、児童が児童が自ら学び方を選択し、椅子に座る学びかたに拘らない学び方を提示するために、オープンスペースを2つに分け、片方はジョイントを敷き、片方は丸椅子とテーブルを設置した。ジョイントマット側はジョイントマットの真ん中に大きい丸布を設置するといった場所を作った。また、ジョイントマットの真ん中に丸布を設置することで、広場のように感じる空間を創り出し、丸布に沿って児童が円になるなど、児童が丸布を基準に集まるという行動をデザインした。

その結果、児童が自ら学び方を選択し、椅子に座る学びかたに拘らない学び方をおこなうといった傾向が見られた。



3年生は、制作活動と発表活動がどちらも同じ比重に活動がある学年である。発表と創造が1つの場所で同時におこなえるような場の設計をおこなうこととなり、発表においても創造物の共有でも使用できるディスプレイを購入するに至った。写真のようなディスプレイ、タイプC変換ケーブル等を用いて、児童が発表練習のために、ディスプレイを使うことができる場所を作った。
また、児童が学習人数や姿勢を選択できるよう、ござのスペースと机と椅子を用いたスペースで分けている。ディスプレイを中心に椅子で囲み、発表の練習をする場所を奥側に作り、真ん中には大きなテーブルをたくさんの椅子で囲い、隣に丸い机とござのスペースを設置する場所を作った。
その結果、集団で制作活動をおこないたい児童は真ん中に、3人~4人の少人数で制作活動をおこないたい児童は丸いテーブルへ、床に座ることや寝そべりながら制作活動をおこないたい児童はござへ移動するといった傾向が見られた。また、発表の練習をおこないたい児童は奥のディスプレイに移動する。制作してディスプレイに移して紹介するなどの傾向も見られた。



4年生は、誰かと制作する活動が全ての教科において多い学年である。このため複数人で創造がおこなえる空間を作るため、机と椅子の量を増やすに至った。「創造」として、写真のような長机、机、丸椅子、ジョインマット、クッション等を用いて、児童が個人の制作や活動ニーズに合わせて選択するために、ジョイントマットのスペースと丸椅子に座るスペースを入れ混ぜ、ジョイントマットの上には、小さな丸いクッションを、机は丸机と、四角の机、本棚を2つ合わせた広い机の3種類を設置した場所を作った。

また、集団が自然と作られるように、ジョイントマットの上に小さなクッションを置くことやグループ同士が交わりやすくなるように、机の近くに机を設置するように場所を作った。
その結果、クッションの位置に座ることが促され、自然と3〜4人の集団ができるようになるといった傾向が見られた。



5年生は対話できる場所と種類(オープン空間であるか、クローズドの空間であるかなど)を増やしたい結論に至り、区切るためのパーテーション、ジョインマット、スツール等を購入するに至った。「対話」として、写真のようなパーテーション、カラースツール、ジョインマット、クッション等を用いて、児童が多様な姿勢や視線で対話をおこなうために、各々が椅子をもって自由に移動できるよう設計した。こうすることで、椅子をもち、テーブルに集まることや、椅子だけを持ち寄り円状に集まることもできるようになった。また、左奥に本棚で囲んだスペースを作った。ジョイントマットを段上にするとともに、本棚とも高さを変えることで、ジョイントマットの上に座る児童と本棚の上に座る児童と対話をするときの目線や話し方を選択することができるようになった。本棚で囲むことで、オープンスペースのなかにおいて少し閉ざされた空間を創ることができる場所を作った。


その結果、対話をおこなううえで、机、椅子だけで円になる、段差状の場所で集まるなど、対話の距離感を自分たちで選択することができるようになるといった傾向が見られた。



6年生は対話の姿勢(椅子に座るか、床に座るか)を多様化させ、自身で対話できる環境を選択してほしいという結論に至った。「対話と集中」として、写真のようなジョインマット、クッション等を用いて、児童が机のサイズにあった数で自然と集まるようになるなるために、ジョイントマットのスペースでは、机が5つあり、自然と少人数の集団が作れるような場所を作った。また、パーテーションを活用することで、個人の空間も作ることができ、個で集中するスペースを作った。

対話において、机を基盤に集団ができ、机を合体したり離散させることで、集団も合算、離散することができるようにデザインされている。
その結果、机の大きさや形に合わせて自然と集まれるようになるといった傾向が見られた。



この半年間に及ぶ取り組みを通して、1つの学校の全職員にコミュニティマネジメントの内容を伝えた上で、子供の行動を 設計をイメージした空間を作ることができた。モデルケースを作成することが当初の予定だったが、教員へのインタビューを通して、試行錯誤する余地を残すことが、教員の主体性を引き出すことにつながることが考えられた。また、発達段階により、オープンスペースのコンセプトの設定が必要だということが判明し、当初の計画を修正することとなった。

実際にオープンスペース作りを行っていく中で、教員が空間を作る当事者意識を持ち、オープンスペースを活用しようとする姿勢が増えたことやコンセプトをもって場を作ることで、オープンスペースの活用方針を定め、教員間の意識の共有ができ、学校として発達段階に合わせたオープンスペースの活用方法があるという認識の共有ができた。

この半年間の取り組みの中で、型を押し付けることが教員の当事者意識を削いでいく危険性を強く感じた。それは子どもも大人も同じではないだろうか。どれだけ素敵な空間を作っても活用しようとする想いがないと、宝の持ち腐れになってしまう。

本当の意味でオープンスペースを活用していこうとするのであれば、必要なことは伴走であり、教員を信じ、教員がもっているクリエイティビィティを最大限発揮できる材料を与えてあげることが重要なんだと思う。

今回まなびぱれっとととして、文部科学省と初めてお仕事をしたわけだが、大変なことはありつつもロフトワークのあゆみさん初め、多くの人のサポートがあってこその今回の結果になったと思う。本当にありがとうございました。

このプロジェクトをやり切ったことは僕個人としても会社としても自信に繋がるし、まなびぱれっとが空間作りにも挑戦できることを知ってもらえるきっかけになったらと思う。

4年生だけでなく、学校としての空間活用の意識をどう育てていくか、教員任せにしない伴走しながら考える空間活用をこれからも大切にしていきたい。

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小泉しのぶ(小学校教諭×起業家→教育委員会×起業家 )
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