人間ラブドールと本物のラブドールが並んだユニークなイベント「人間ラブドール生展示」に潜入 @大道芸術館(東京・墨田区)
2024年5月3日、東京・墨田区の大道芸術館で「人間ラブドール生展示」というイベントが行われた。主催は、人間ラブドール製造所(大阪府東大阪市)。「人間ラブドール」すなわちラブドールに扮した人間が本物のラブドールと一緒に展示されるという驚きの展示だった。この怪しげなイベントの実態を探るべく、会場に潜入した。
「人間ラブドール生展示」
展示は2階と3階で行われた。大道芸術館には常時ラブドールやマネキンが展示されているのだが、今回はそこに人間ラブドールたちが紛れ込んでいた。微動だにしない彼女たちはまるで本物の人形のようで、ラブドールメーカー・オリエント工業のラブドールと並んでも、一見、見分けがつかなかった。
展示されていた人間ラブドールはあめり、こはね、二宮繭、マカロン、真白、ルカの6体。各々、ベビードールやコスチュームを身に付けていた。皆ラブドールよろしく、通常の場では見られないようなセクシーな装いだったが、刺激的でみょうちくりんな大道芸術館にはよくマッチしており、違和感なく溶け込んでいた。
2階はカフェ&バーとなっており、カウンターが設置されている。その向こう側にあるひな壇に、人間ラブドールたちが座っていた。着席してカウンター越しに眺めることができるが、当日は17時半に開館してからすぐに座席が埋まってしまうほど大盛況だった。ドリンクを片手に場の空気感を堪能する人もいれば、好きな場所に移動して写真を撮る人もいる。それぞれが思い思いに楽しんでいた。
3階の展示は大道芸術館の目玉だ。SFの世界をテーマにした異様な近未来的空間が再現されており、数体のマネキンが怪しげな機械の中に設置された不気味な光景が広がっている。そこに人間ラブドールが立っていたのだが、その尋常ではない眺めに圧倒された。少し腕が広がったぎこちない立ち方が、まさにラブドールのようだ。
展示中、白衣を着た2人の女性が館内を巡回していた。2人は人間ラブドール製造所の製造師(スタッフ)で、帽子をかぶっているのが所長の新レイヤ(あらた・れいや)さん、もう1人がヘアメイクと着付を担当している結樹(ゆうき)さんだ。来館者と言葉を交わしながら、展示の様子を写真に収めつつ、人間ラブドールたちの手入れをして回っていた。
人間ラブドールは、全般のプロデュースを務める新さんの指示があるまで動けない。髪を整えたりメイクを直したりするのは、製造師の仕事だ。この日の現場でも、まさに人形のような扱いを受けている。その様子は本当に不思議だった。時には、あふれた涙を拭ってもらう場面もあった。まばたきを控えていると目が乾き、涙が出てきてしまうのだという。それでも、製造師が来るまでは垂れ流されたままだ。
新さんは、時々彼女たちのポーズを変えていた。そっと腕を掴んで形作ったり、頭を動かして首を傾げさせたり…。最後には決まって自身の指で人間ラブドールの視線を誘導して定め、一体一体を演出していた。時折「かわいいね」と愛玩するような言葉をかけていたのが印象的だった。普段は大阪で「人間ラブドール」への一般人の変身を業務としている人間ラブドール製造所の真髄を垣間見た気がする。人形のように、彼女たちが黙ったまま手足などのポーズを変えられている姿はシュールだった。
演者の体力を考慮し、交代しながら展示が続けられる。交代の際は、製造師やアシスタントによる合図で途端に人間に戻り、自ら動き出すのだ。まるで催眠術が解けたかのような挙動に見入ってしまった。
都築響一×人間ラブドール製造所トーク
19時頃から、『POPEYE』『BRUTUS』誌の編集や『TOKYO STYLE』などの著書で知られる写真家・ジャーナリストの都築響一さんと新さんの対談が行われた。来館者とスタッフ全員が2階に集まり、カウンター内の2人の話に耳を傾けていた。2人がトークを繰り広げる後ろでも、人間ラブドールたちは完全に背景の一部となっている。計12体のラブドールが一堂に並んだ光景は、強烈なインパクトを放っていた。
来館者は40名ほど、スタッフやキャストも合わせると室内には50名以上いただろうか。部屋から人があふれ、予備の椅子が設けられたが、一部の人はひな壇の端に座っていた。予想外の盛況だったそうで、「キャストのほうが多かったらどうしようと思っていた」と新さんは語った。
都築さんの進行の下、話が進められた。人間ラブドール製造所とは何なのか、どんなことをする場所なのか、始めたきっかけは何だったのか。同製造所の何たるかを知ることができる、興味深い対談だった。
題材が題材なだけに、会話の大半が性的な話題になった。卑猥なワードが飛び交いつつも、2人の話術でポップに変換され、展示室内にたびたび笑いが起きていた。通常であれば公の場で大人の口から「下ネタ」を聞くことはないため、ある意味新鮮な体験だった。レイヤ節が効いたしゃべりと、都築さんのユーモラスな合いの手で、場は盛り上がりを見せる。時々、背後の人間ラブドールに話が振られた。彼女らがその時だけすっと人間になり、そしてまた人形に戻っていく様子も見ものだった。
「うち(人間ラブドール製造所)は、性行為のないイメクラのようなもの」という、新さんの冗談混じりの発言が忘れられない。イメクラとは、イメージクラブの略で、女性従業員がコスチュームを着用し、シチュエーションに沿って性的サービスを提供する風俗店だ。人間ラブドール製造所では、それぞれの「ラブドール」ごとに異なる設定の下、新さんが扮するオーナー(ラブドールの持ち主)に愛でられながら撮影が進められる。具体的には「小芝居(即興劇)」が行われるのだが、確かにイメクラと似ている部分があるかもしれない。
この日は、都築さんの促しにより、製造師たちが特別に即興劇を披露してくれた。「ルカを前に、ラブドールのショールームスタッフとその優良顧客が話している」というマニアックなシチュエーションだ。何が起きても一切表情を変えないルカから目が離せなかった。
恥を捨て平然とこなされたやり取りに、「今のは小芝居なんですか?(笑)」と突っ込みを入れる都築さん。即興劇は、境目が分からないほどナチュラルに始まるのだ。この寸劇を見るのも、人間ラブドールになる楽しみの一つなのだという。
トークショーの中で、安部陽(あべ ・はるひ)監督による映画『人間ラブドール ─生まれ直す人たち─』が上映された。製造所にやって来た人々に取材したドキュメンタリーで、その有様がダイレクトに映されていた。
その後はプロジェクターでパソコンの画面を投影し、これまでに製造してきた人間ラブドールたちの写真を示しながら、印象的なエピソードが紹介された。「この子はドMだったからこんな撮影をした」とか「これは一家で来てくれた人の写真なんです」とか、突飛な話がいくつも出てきて、驚きの連続だった。来館者の中には人間ラブドール経験者も多く、その場で変身時の写真とともに紹介された人も何人かおり、なかなかの変貌振りに驚かされた。過去の事例について楽しそうに語る新さんからは、全ての体験者への愛着が伝わってきた。
チェキ撮影・梱包開封体験
今回のイベントでは、展示と並行してチェキ(富士フイルムのインスタントカメラ)撮影と梱包開封体験が行われた。料金は1回につきそれぞれ500円だ。トークショー後に時間が設けられ、希望者が長い列を作って順番待ちをしていた。
チェキ撮影では、好きな人間ラブドールとのチェキを撮ることができた。人間ラブドール全員と一緒に写ることも可能だった。2回購入し、両方のパターンで撮る人も多かった。購入者は一緒に写った人間ラブドールたちに挨拶や礼を述べていたが、人形であるはずの彼女たちが一応口少なに返答したり、遠慮がちに会釈で応えたりしているのがまた面白かった。
梱包開封体験では、体験者自身が160cm程の段ボール箱に入り、ラブドールのように梱包・開封される体験をすることができた。大道芸術館の玄関先には、そのための箱がでかでかと置かれていた。実際に撮影で使われている物で、大阪からわざわざ持参したのだという。短い即興劇も付いており、「梱包・開封の儀」を少しだけ味わえる貴重な機会に、梱包されたファンたちは歓喜していた。ビニールに包まれ段ボール箱に入れられたレアな経験は、一生の宝物になったことだろう。
終わりに
同製造所は今回以外にもたくさんのイベントを開催しているが、人間ラブドールを本物のラブドールと一緒に展示したのは初めてだったという。「人間の展示」と聞くと人類の黒い歴史が思い出されるが、そういった類のものとは全く異なる、愛に満ちた面白いイベントだった。次の機会に、未知の世界へ足を踏み入れてみてはいかがだろうか。
取材・撮影・文=齊藤愛琴
人間ラブドール生展示
開催日時:2024年5月3日(金) 17時30分〜21時
会場:大道芸術館
主催:人間ラブドール製造所
イベント告知ページ:https://lovedollblog.com/240503-2/