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夜のキャンパスにて【2】

【1】はこちら→ https://note.com/tamaacalicocat/n/n72918b10dffb

話の続きを書こう。

私が通っていたのは文学部だった。

たいがいどこの学校もそうだと思うが、1年生には語学のクラスがある。私のいた学校では、ついでにそのクラスで課題が割り振られて、皆の前で発表を行う演習の授業があったように思う。演習のテーマは学生は選べず、担当の教員の専門で適当に決められるシステムだったと思う。

私のはいったクラスで与えられたテーマは詩人の「萩原朔太郎」だった。

その人はそこにいた。

文学部の1年生とは、大概は何者でもない。何とか受験勉強を終えて解放感に浸りながら、何をやろうか道を探してるといえば聞こえはいいが、要するに迷子だ。

そこで、その人は既に詩人だった。遠い昔の事過ぎて記憶が無いが詩の専門誌で賞を受けて既にデビューしている詩人だった。創作系の専攻が人気の学校だったので、まあ、既にそういう立場にある人というのは尊敬とその裏側にある感情の入り混じった目でみられる。

とはいえ、なんとなく世間の標準からは外れた夜の学校。しかもどこへ辿り着くやらよくわからぬ文学部。あまりライバルを見つけて切磋琢磨してどうこうといったガツガツした雰囲気の人はおらず、その人自体も飄々とした人だったので雰囲気はおおよそ平和だった。

その人が少し年が多かったのも影響していると思う。おまけに働いていて、学費を含め経済的に完全に自立していた。多くはなかったが、夜の学校にはそういう本来いるべき人たちもいた。

その人は私たちの中では本当に大人だったのだ。

「詩人っていったってさ…」とこっそり何か言っていた人がいた覚えはある。専門誌といっても色々あるのを言いたいらしかった。でも、そうは言ってみても、言う方もまだ何者でもなかった。

私なんか親に学費をだしてもらって、年も大人ですらない。ものぐさな私は喧嘩をする気にもなれず、曖昧に笑ってやり過ごした気がする。

私以外もあまりまともにその話の相手をする者はいなかったと思う。

みんな、自分の事で忙しい。

(つづく)

【3】はこちら→ https://note.com/tamaacalicocat/n/nf8d82d725668



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