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夜のキャンパスにて【1】

私に表現とはどういうものか教えてくれた人の話を書いておきたい。

本当ならその人の許可を取って書きたいのだが、だいぶ昔の話で、その人の連絡先などを訊いたことが無かったので、今更、相談ののしようも無かった。

とはいえ、どうしても書いておきたい自分の欲望に負けて書くことにする。なので、こういう場合にありがちに、大枠は事実に沿って書くが、少し違うことを混ぜたり、曖昧にしたり、その人が誰かわかりにくい様にして書きたい。

その人が今も幸せに暮らしていることを願って…。

19才になる年、私は少し変わったことをしていた。大学の夜間部に通っていたのだ。

大学の夜間部というのは、本来なら仕事を持ちながら勉強をしたい学生向けの学部だ。しかし、私はそこから昼間の学部への転部試験を狙ってそこにいた。一種のいわゆる学歴ロンダリングだ。

その頃は何しろまだ20世紀。バブルの崩壊後の不景気が続いていたとは言え、世の中自体が今よりはいくぶんか余裕があった印象で、私の様に昼間の学部への転部を目論む仮面浪人の様な学生がかなりいた。

あまり立ち入ったことを聞き出すタイプでは無いが、とにかく若かったし、学生同志の気安さや受験を終えた解放感から、割と色々話したりはする。飲み代などの小遣いの為にアルバイトは皆してたが、働いて学費を稼いでいる学生は少数派だった気がする。奨学金という名の学生ローンを使って通って来ている学生は殆ど居なかったと記憶している。地方から来ている学生もそれなりに仕送りを受けているものが多かった時代だったと思う。

そんな昔の話だ。

(つづく)

【2】はこちら↓
https://note.com/tamaacalicocat/n/naab2d04c307a

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