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地方の歴史ある中小企業にソーシャルビジネスへの挑戦をすすめる理由
千年建設の代表をしている岡本です。
建設会社に加えて、家を借りられないシングルマザーに低い価格で物件を貸す会社と、自立に向けた伴走支援を行うNPOを経営しています。
みなさんは「ファミリービジネス」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?「家族経営」「同族経営」といったほうが、耳馴染みがあるかもしれません。
僕は39歳のときに、他界した父がつくった地元名古屋の建設会社を事業承継し、はじめてファミリービジネスの経営者になりました。
その後、コロナ禍で困窮するシングルマザーを支援するNPOや新会社を立ち上げています。
僕の場合は、ファミリービジネスの中小建設業 ✕ NPO ✕ スタートアップという3つの法人のハイブリッドで経営するようになったことで、本業のビジネスが伸び、会社の社会的価値も高まったと感じています。
このnoteでは、ファミリービジネスの中小企業が、社会課題の解決を目指すソーシャルビジネスに挑戦する意味について書きたいと思います。
ファミリービジネスは社会性が高い
地域に貢献するビジネスを行うファミリービジネスと、社会課題を解決するソーシャルビジネス。その成り立ちはとても似ています。
僕の知り合いには100年続いている会社の跡継ぎや、3代目・4代目・・・と世代を超えて会社を続けているファミリービジネスの担い手がたくさんいます。
そんな地方の中小企業のほとんどがその土地に根ざしたビジネスをしていて、地域でコミュニティをつくり、地域社会への貢献意識が高い。とてもソーシャル的な成り立ちをしています。
たとえば、ソフトバンク・ビジョン・ファンドで孫正義さんと世界中で投資をしてきた加藤さんという人がいます。
彼は、世界中のスタートアップ企業に投資と経営支援を行う、資本主義のど真ん中ともいえる世界で活躍していました。でも最近、愛知県の瀬戸市にある加藤工務店に、4代目の跡継ぎとして戻ってきたんです。
加藤工務店は道路の舗装をしている90年以上続く会社です。まだ道路がなかった砂利道の時代から、瀬戸市のあらゆる道路をつくってきた自負がある。
とても社会性が高い会社です。
僕が代表を務める千年建設も、そういう側面があります。
千年建設は工場の修繕を多く請け負い、主に東海・北陸地域の製造業を下支えしてきました。
工場の建物がしっかりしていないとものづくりは成り立ちません。「ものづくりを建設技術で支えたい」が会社のタグラインで、そこに誇りを持っています。
こんな風に、特に地方の中小企業の根っこは社会性が高いんです。
どの会社もこの変化が激しい時代に80年・100年と続く会社経営をしています。なのでビジネスを考えるうえでの時間軸がかなり長い。
この地域を盛り立てよう・地域に貢献しようという根本的な考え方や、ビジネスを長期スパンで考えるファミリービジネスの特性。
これが、市場経済の中だけでは解決できない課題を解決しようとするソーシャルビジネスと、とても相性がいいと考えています。
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歴史ある中小企業こそ、新しい挑戦がしやすいアセットを持っている
ファミリービジネスを続けてきた歴史ある中小企業には、有形無形さまざまなアセットがあります。
有形だと土地と資金。無形だと信用力といったものです。歴史とともに積み上がっている。
だからこそ新しいチャレンジがしやすい環境が整っていると考えられます。
どんなビジネス・活動でも、創業期というのは本当に大変です。
例えばNPOならゼロから支援現場をつくらないといけない。同時に資金も必要だからと助成金の申請をたくさん書いても、まったく通らないということもあります。
株式会社ならたくさんの投資家を回って、なんとか資金調達ができてもリターンに追われてしまう。仮に長い目でみてくれる投資家に出会えたとしても、返さなければというプレッシャーは大きいですよね。
すでにアセットを持っている会社のほうが挑戦しやすいわけです。
なので世の中に新しい価値を生み出そうとするファミリービジネスの中小企業が、もっと増えてもいいんじゃないかと思っています。
挑戦するジャンルは、AIやDXといった今のトレンドに合った方向性もあります。ただ多くの会社が目指すレッドオーシャンでもある。
社会課題を解決するソーシャルな取り組みというと、CSRのことだと考えていたり、売上をつくることはできないと考えている経営者が多くいます。
でもこれからは、役立つものよりも意味あるものにお金が流れるような、共感の時代がくるかもしれません。
そんないま、歴史ある中小企業が事業戦略を考えるうえで、ソーシャルビジネスを検討するのはとても あり なんじゃないでしょうか。
ソーシャルビジネスへの挑戦が採用成果に
ファミリービジネスの歴史ある中小企業がソーシャルビジネスに挑戦すると、どんないいことがあるのでしょうか。
それは優秀な人材を共感ベースで採用できるようになることだと思っています。
僕が千年建設という地方の建設会社の経営者になって一番驚いたのは、採用の難しさです。
Webのリニューアルをはじめ、やったほうがいい採用活動は全部やって、1年間頑張っても1人しか採用することができませんでした。
しかもこれは選考の結果ではなく、ほぼ応募数とイコールです。それくらい採用が難しかった。
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その後シングルマザーを支援するNPOや新会社をつくって活動を始め、いまは「社会課題の解決に取り組んでいる建設会社だから、千年建設に入社したい」という若者が増えています。
NPOの活動は、思った以上にメディアに取り上げてもらっています。地方の建設会社が本業でメディアに載る機会はあまりありません。
メディアに載ったことでさまざまなステークホルダーに僕たちの取り組みや考え方が届きました。その結果、採用成果につながっています。
千年建設は、2022年に企業フィランソロピー大賞に選ばれたということもありました。
この賞は、経営資源を活用して社会課題解決のために貢献する企業を顕彰するというもの。僕たちは「ソーシャル×建築賞」をいただきました。
このときの大賞はパナソニック ホールディングスさん。他にもアクセンチュアさんなどが選ばれていました。
そんな名だたる企業と並んで、地方建設会社が表彰されている・・・。それがメンバーにとっては、自分たちがやっていることや会社に対して誇りを持つ後押しになっていたようです。
もちろん誰かに評価されるために取り組んでいるわけでもメディアに載るための活動でもありません。
でも、メディアに注目されたり外部から評価される機会があると、やっぱり自信につながります。社員から「いい会社に勤めているね、と親に言われました!」なんて声をかけてもらうと、僕もうれしいんです。
地方の中小企業こそ、共感で人が集まる企業ブランディングが必要
これからどんどん人は減っていきます。人材の獲得競争はますます厳しくなる。
特に建設業はあまり若者から人気がありません。今は職人のみなさんの熟練の技術でもっていても、この先高齢化が進み、10年20年は続けられない。
さまざまな業界で、廃業に向かうか若者が入りたいと思う会社になって成長するか。二極化が進むと思います。
もちろん首都圏の大企業やスタートアップは別で、その変化は緩やかに見えます。地方中小企業の場合は、未来の話ではなくもうすぐ目の前にある課題です。
いまと同じことをしていて、この先も何十年と続けていけるかは分からない。僕たちの会社にも危機感がありました。
だから僕がソーシャルビジネスをはじめたいと言い出したとき、千年建設の役員は「自分たちは建設のことしかできない。もし社長が新しい事業や取り組みをはじめるなら、そこに可能性がある」と新しい取り組みを応援してくれました。
本業をからめたソーシャルビジネスだからこそ、共感で人が集まる。短期的な利益は大きくないかもしれませんが、長い目でみると本業につながる企業ブランディングになります。
ただ、儲けようとか採用に有利になるからやろうと思ったわけではないことが肝だったと思います。人は本音に敏感です。儲かるからやろう、戦略上有利だからやろうというのは、どうしてもにじみ出てしまう。
ブランディング効果や利益は結果としてついてきたのであって、それ自体が目的化してしまっていたら、うまくいかなかったのではないかと思います。
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日本の企業のうち、99.7%が中小企業だと言われています。(出展:中小企業庁)
本当の意味での地方創生は、地方の中小企業が元気になること。でもみんなどうすればいいか分からない状態です。
僕はその答えの1つが、ソーシャルビジネスへの挑戦にあるかもしれないと、そんな希望を持っています。
日本では、国や大企業がESGやSDGsをことさらに掲げるのではなく、全国の中小企業がごく当たり前にソーシャルビジネスに取り組んでいる。
その結果、本業の業績も伸びている。そんな希望です。
今後は、瀬戸市で道路の舗装を営む加藤工務店の4代目となった加藤さんのような跡継ぎ仲間ともっとつながって、チャレンジを後押しするような取り組みもしていきたいと思っています。