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源流としての知識
外来でよくある光景。「せんせい、膝の軟骨の材料のサプリを買って飲もうと思うんですが、膝は良くなりますか?」「うーん、髪が薄くなった人が髪の毛を食べたらフサフサに生えますかね?」とまぁ、こんな会話を通じて「ホント」を共有していくわけです。
これは私の外来診療での光景をツイッターに投稿したものです。該当する変形性膝関節症の患者さんたちは、長年の荷重や負荷も重なり、膝関節が変形、関節内部もダメージを受け、進行すれば立ち上がるのも、歩くのも辛い、そんな状態です。テレビで見た、新聞広告にあった、友人に薦められた、民間療法の先生に飲むように言われた、などの理由で高価なサプリメントや、よくわからない健康食品についてしょっちゅう質問を受けるのです。
このような光景は、私の外来だけに特有の現象ではないはずです。もちろん積極的に何らかの可能性を求める、この部分については否定されるべきことではありませんが・・・どれほどの医学的根拠があるか、詳しくない人をミスリードしていないか、には注視すべきでしょう。
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もし変形性膝関節症が「関節軟骨の成分の不足が原因」なのであれば、軟骨成分のサプリメントを内服する、という方法は一見有効なように思われますが、日本整形外科学会の公式サイトには2022年10月現在、「原因は関節軟骨の老化によることが多く、肥満や素因(遺伝子)も関与しています。また骨折、靱帯や半月板損傷などの外傷、化膿性関節炎などの感染の後遺症として発症することがあります。加齢によるものでは、関節軟骨が年齢とともに弾力性を失い、遣い過ぎによりすり減り、関節が変形します。」と記されており「関節軟骨の成分の不足が原因」とはされていません。ですので「かなり効果は疑わしい」ということになります。
次に(違うのですが)百一歩譲って「関節軟骨成分の不足が原因」だと仮定した場合であっても、関節軟骨の成分を経口で摂取した場合、その成分は消化酵素によって、アミノ酸やブドウ糖などのレベルに細かく分解されることになります。
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つまりパッケージに記載されているであろう関節軟骨成分は、元の形を留めることなく小腸から吸収され、血液に取り込まれることになります。さらに言えば、摂取した成分がきちんと膝関節内に到達するかどうかはわかりませんし、もっと言えば、そこで関節軟骨として再合成される保証もありません。かなり健康食品寄りの仮定をしたとしても、やっぱり「ますます効果は疑わしい」という結論になってしまいます。
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幸い、私は論理的、科学的、専門的な説明をする立場にいるので、そこから見た「ホント」であったり、標準治療の有効性や、僅か数キロの減量で随分と疼痛が軽減された症例であったりを共有することができます。同時に「全くの門外漢の領域」に関しては、「髪の毛を食べる、髪の薄い人を笑いながら、自分も同じようなことをしている」ということは多いにありえます。
今の世の中にはいろんな「方法」が溢れ返っています。「こうすればキレイになれる」「私はこれで経済的成功を手にした」「100歳でも歩けるトレーニング」「ガンが治る奇蹟のパワーストーン」・・・。そんな影響もあるのでしょうか、「方法だけを変えて、結果が変わる」を期待する人も少なくないように思います。
変化の過程を川の流れに喩えるならば、「知識」は源流にあたります。知識が変われば、前提が変わり、前提が変われば、方法も変わり、方法が変われば、結果が変わる。思い切って最上流にアクセスし、「知識」から変えてみると、オセロがパタパタとひっくり返るように望む方向の変化が生まれることがあります。ニューヨークタイムズによれば世界の情報量はなんと1年で2倍に増えているそうです。ますます「ホント」に辿り着くのは簡単ではないからこそ、「ホントはどうなんだろう?」の問いが強さを導く時代と言えるでしょう。
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以上、拙書『強さの磨き方』からご紹介いたしました。情報過多の時代、「無知につけこみ、自己責任に転化する」ビジネスや広告、ミスリードに溢れています。そんな風潮にカウンターと対策を、ということで上記を無料公開としました。読んでくださりありがとうございます!