「発表」って何をどう指導するの?
英語科教育法IIIの授業ログ。
今回は「話すこと(発表)」についての講義回。
発表の目標
高等学校学習指導要領の英語コミュニケーションIでは「発表」について以下のような目標が掲げられている。
「日常的な話題」でも「社会的な話題」でも、「論理性」が重視されるのが特徴の一つだ。
尚、英語コミュニケーションIIでは、支援の量が「一定」とされ、「詳しく話して伝える」となる。
英語コミュニケーションIIIでは、支援への言及が消え、「明確な理由や根拠」が求められたり、質疑応答や意見・感想の伝え合いまで含まれる。(「最後、やり取りやん」とも思うけど、質疑応答や意見・感想が出るような発表が求められているということだろう。)
発表の指導上の留意点
私の不勉強を恥じるしかないが、日本における学校英語教育の文脈で「話すこと」の指導を体系的に論じたものに未だに出会えていない。今期かなり頼りにしてきた岡田ほか(2015)『基礎から学ぶ英語科教育法』でも「やり取り」と「発表」を意味ある区別として扱っておらず、それぞれの領域の指導法の体系的整理はない。(無意味な区別だというメッセージか?)
というわけで、「話すことの指導は、他の技能に比べて、僕ら20代も含めてこれからの英語教育者みんなで築き上げる必要性が高いから、色々一緒に考えていこう」というスタンスで授業を進めた。(おかげで授業スライドは過去一番少ない)
その上で、授業で「発表」をする際に留意するいくつかのポイントとして、「形態」「テーマ」「評価・指導の観点」「オーディエンス」を挙げ、学生には以下の4つの問いに答えてもらった。
「発表の形態はどのような形が考えられる?」
「発表のテーマはどのような形が考えられる?」
「「論理性」以外に注意してほしいポイントは?あるいは、先生として何を評価する?」
「オーディエンスには何を求める?」
形態
「形態」という言葉がやや曖昧だった(意図的に曖昧にしたというのもあるが)ので、学生からは授業運営上の発表形態、発表に用いる媒体、活動名等が挙げられた。
授業運営に(も)関わる発表の流れについては、例えば以下のような案が出た。
グループ内で一人一人発表し、代表者一人がクラスの前で発表
ジグソー活動の活用
複数人での発表
学年全体や他学年を呼んでの発表
続いて、発表に用いる媒体に関わるもの。以下の3つは「今っぽい」だけでなく、オーディエンスを無制限にできるという特徴を持つ。
ビデオ
Vlog
オンライン
そして活動の種類については定番のラインナップ。
スピーチ
プレゼン
show & tell
単元の目標や生徒たちの特性、先生・生徒のワクワク感などを考えながら、これら色々な種類の「形態」を組み合わせるだけで、一口に「発表」と言ってもかなりの数の活動が出来上がる。
複数人でshow & tellをビデオに撮ることもできるし、(ジグソー活動の)エキスパートグループの一員としてVlog風の映像と合わせてスピーチを挿し込むということもできる。
テーマ
発表のテーマは多くの学生が考えあぐねていた姿が意外だった。こちらが「何でも良いのよ」と言えば言うほど出てこなくなる。「英語の授業っぽいテーマ」みたいなものの呪縛で苦しんでいるようにも見えた。
最終的に出た案の一部を以下に挙げる。
自己紹介
家族紹介
人生でしたいこと
観光スポット紹介
休みの思い出
学校生活で頑張ったこと
好きな〇〇
学校に「昼寝」を取り入れることの是非
環境・歴史など社会問題
いわゆる「日常的な話題」が多く出され、一方「社会的な話題」はカテゴリーとして提案された。後者については「聞いたり読んだりしたことを基に」発表することが求められているため、教科書の内容に合わせて考えれば良いだろう。
また「〜することの是非」は一つのパターンとして使える。
自分の思いに基づいて是だけ、非だけを語るのも有りだし、是と非をバランス良く取り上げる形にしても良い。
ただ、どうしても(学生たちのアイデアの問題ではなくて)どんなテーマであれ「英語で発表して」と言われた瞬間萎えてしまう自分や過去の生徒の姿がありありと想像できてしまう。
「言いたい気持ちにさせる」ことの難しさよ…。
評価・指導の観点
上で学習指導要領上の「発表」の目標を見たが、発表では話題が日常的か社会的かを問わず「論理性に注意して話」すことが求められる。
でも「PREP!」「OREO!」と言われるだけのプレゼンや、英検ライティングを朗読しているかのようなスピーチではつまらないだろう…ということで論理性以外に指導・評価したい(する可能性のある)ポイントを考えてもらった。
声
視線
発音
表現・語彙の豊かさ (形容詞や副詞の効果的な使用)
おもしろさ
完成度
展開
分かりやすさ (キーワードの繰り返し、スライドデザインなど)
「声」については学生は「大きな声」と言ってくれたのだが、「学年や発表の技術レベルによっては、声の大小を目的に応じて使い分けることまで考えさせたい」と私の方から付け加えた。「発表」でも「やり取り」でも「リピート」でも、いつまで経っても"Loud voice!"と指導し続けることはもっと批判的に見られても良いと思う。
「表現・語彙の豊かさ (形容詞や副詞の効果的な使用)」というアイデアにも注目したい。最初これを出した学生は単に「表現・語彙の豊かさ」とだけ言ったので、「もうちょい具体的に言うと?」と尋ねると「形容詞とか副詞とかを上手く使って…」という風に説明してくれた。自分が学部3年生の時にその考えが果たしてあっただろうか。正直、驚いた。
確かに"〇〇 is very good."でも伝わるには伝わるが、"very"の部分を"extremely"や"ultimately"なんかに変えてみたり、"good"も"wonderful"とか"fabulous"とか色々変えようはある。もっと具体的な情報を伝える形容詞もあるだろう。原稿を作った上で暗唱させて発表させるのであれば、生徒の言いたいことに合わせて色々な語彙を導入するチャンスだ。
オーディエンス
書くときの読み手、話すときの聞き手は、英語の授業において忘れられがちな存在だ。(書くときの読み手の忘れられ具合は致命的)
聞き手はただその場にいれば良いわけではなく、話し手とともに場を作り上げる重要な参与者だ。
学生がオーディエンスに求めることは以下の通り。
頷き・リアクション
他の人の発表の良いところを次に活かす(つもりで聞く)
発表者は何を一番伝えたかったのかを掴む
聞いたことに関する自分の意見を持つ
意見の異なりを「多様性」と捉える
意見が一致した場合には、最終的な意見に至る「要因」まで注目する
何からでも良いので、何か刺激を受けてほしい
まとめてしまえば「アクティブ・リスナー」であってほしいと言える。
身体的なアクティブさ(頷き・リアクション)だけでなく、頭の中もアクティブに動かしながら聞くことが求められる。
「発表者は何を一番伝えたかったのかを掴む」「聞いたことに関する自分の意見を持つ」あたりはオーディエンス用のワークシート等を作ることで、ある程度実現できそうでもある。だが、ワークシートを配ればその通り動くという生徒ばかりではないことは、今期繰り返した模擬授業と検討会を通して痛いほど実感している。そんな彼女たちにとっては、実際に指導する際、発表者の指導そのもの以上にオーディエンスが「壁」に感じられるかもしれない。
まとめ
そんなわけで今回の授業は、何も体系的に整理されていない話すこと(発表)の指導について、観点を発散させるような時間となった。
今回出たさまざまな視点をそれぞれの授業観や担当する生徒たちの実状に合わせて考慮し、限界は限界として認めつつ、発表の活動を楽しく・知的に・創造的に組めるようになりたい。
授業の最後に中学生の教科書の1ユニットを題材に単元の最後に何かしらの発表をする計画を組んでもらったのだが、少々時間が押しすぎたのでそこはやや不完全燃焼に。ごめんよ…。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?