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ナチュラルチキン・スープ販売スタート!!〜腎臓と時間の対話〜



五十嵐創がスープの鍋を見つめる頃、土屋拓人は病院のベッドで天井を見つめていた。
静かな白い光が蛍光灯から滲み、左手首にはカテーテル治療の跡が生々しく残っている。

腎動脈狭窄症――

その名前はどこか機械的で冷たく、まるで工場の故障報告書のようだった。

左腎動脈が狭まり、血液が十分に流れ込まなくなった。腎臓という「生命のろ過装置」は、十分に機能できなくなっていた。

「ステントは入れていません。バルーンで広げました」
医師の声が頭の中で反響する。

腎臓は握りこぶしほどの大きさ。だが、その小さな臓器は1分間に約1リットルもの血液をろ過し続ける、精密で無慈悲なフィルターだ。

そのフィルターが詰まりかけている――それが現実だった。

「110セット限定」

五十嵐創から送られてきたLINEが拓人のスマートフォンに表示されたのは、退院して3日目のことだった。

「ナチュラルチキンのお雑煮――塩分0.4%、クリアな出汁。」

スープを啜ることが、腎臓への小さな感謝の儀式のように思えた。

五十嵐創は厨房に立つ。

ニュージーランド産ナチュラルチキン。その鶏たちは、ワクチンや抗生物質を一切使わず、ストレスフリーな環境で育った。

「ストレスが肉を酸化させる――」

その言葉を噛みしめながら、彼は鶏を丸ごと仕入れ、骨と身を分けていく。

彼の指先は迷いがない。骨からは雑味のない澄んだエキスがじわりと滲み出し、鍋の中に広がっていく。

それはまるで、壊れかけた腎臓をゆっくりと浄化する「もうひとつの腎臓」のようだった。

「雑味を排除し、純度を極限まで高める。」

出汁は清らかで透明。そして、その透明さの向こうには、圧倒的な深みが隠されている。

土屋拓人は届いたスープのパウチを湯煎にかけ、湯気が立ちのぼるのをじっと見つめていた。

封を切ると、鶏の出汁と自然栽培野菜の香りがふわりと漂う。

「腎臓よ、頼むから動いてくれ。」

彼は両手を合わせ、祈るようにして器を口元に運んだ。

一口飲むと、その出汁は身体の隅々まで染み渡るようだった。

塩分は0.4%。だが、物足りなさはない。舌の上に残るのは、鶏の旨味と野菜の甘みだけ。

それはまるで、疲れ切った腎臓が少しだけ息を吹き返したかのような感覚だった。

腎臓は言葉を持たない。

しかし、拓人には分かる。このスープは、腎臓への小さな謝罪であり、感謝でもあるのだ。

110セット。

それは贅沢ではなく、選ばれた者だけが手にする「再生の滴」だった。

五十嵐創の鍋から生まれたその一滴は、土屋拓人の腎臓に届き、静かに糸球体を潤す。

「腎臓も、今だけは、少しだけ楽になったはずだ。」

湯気が薄れていく器の底に、最後の一滴が光る。

それは、拓人の腎臓と、五十嵐創の哲学が交差する「一滴の奇跡」だった。 ︎
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