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人間は既有知識に基づいて新しい知識を獲得したり物事を理解したりする(Cobb,1944)

『魚は魚』という古典的な童話を知っていますか?

アニメ
https://www.youtube.com/watch?v=dLknkntNxN4
あらすじ
https://us-picture-books.hatenablog.com/entry/2016/02/07/074040

この本は、カエルの説明を聞いて、魚が思い浮かべた人間や鳥や牛の絵が書かれている。これこそ、タイトルの「既有知識に基づいて物事を理解する」ことを言い表している。魚は魚から発想を飛躍することができない。
『童話は、既有知識を基礎にして新しい知識を構築することに内在する創造的な側面と誤解をもたらす危険性の両面を如実に示している』(How People Learn)

「既有知識」が正しければ問題はないが、科学的に間違っている場合は、「誤概念(ミスコンセプション)」と呼ばれる。子どもの発達段階においては、正しい認識なので強固であり、間違いを正すことが難しいとされている。したがって、間違ったまま大人になっていることも多い。
また、理科においては「素朴概念」という言葉が用いられ,子どもの学習前や学習後にもっている科学的に精緻化されていない知識、概念、見方、考えおよび考え方と定義されている(堀,1998)。

面白い授業がある。
その「誤概念(ミスコンセプション)」の混乱を極力排除しようと試みた授業である。取り扱う内容は、4年理科「すがたをかえる水」である。https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsser/34/8/34_No_8_190802/_pdf

結論は、「誤概念(ミスコンセプション)」の排除は、「問い方」にあるという。

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対照実験で、上記の2つを取り上げる。
「課題」(つまり「問い」)の検証すべき焦点が違う。
授業Aは、水に焦点を当てている。
授業Bは、あわに焦点を当てている。
「水」も「あわ」も対象物をくわしく見ることが難しいが、どちらかと言えば、「あわ」の方が見づらい。
「あわ」の正体をさぐるには、水の中に含まれている微量の空気や透明なものは空気であるという「誤概念」を誘発しやすい。未習の「水蒸気」を問われるという不確実なものを予想することからもあてずっぽになる。
ところが、「水」に焦点を当てる授業Bでは、「減った水は、どこに行ったか」が「問い」となる。減った水は、減った=空気中の予測が立ちやすい。
だから、「誤概念」が排除されたのだと考えられる。

また、空気と水蒸気の違いについては、別の実験で確かめると良い。例えば、授業Aで「減った水は、湯気になって空気中に行った」などの結論を引き取って、それでは、「湯気と水面の間には、何があるのか?」、さらに「空気と水蒸気はどちらも透明ですが、何が違うのだろう」と問いが連続することで現象の精緻化がはかられるのである。

さて、このことから授業者は、考える足場となる「既有知識」がどこにあるかを把握する必要がある。
「誤概念」も概念の一つだということがわかった。理科授業は、実験や観察による「概念の再構築」の営みだと言える。

「人間は既有知識に基づいて新しい知識を獲得したり物事を理解したりする」という認知心理学の成果を授業に活かすとはこのようなことなのである。

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