戦略に"想い"を込める「ブランド思考」のススメ

皆さんは「ブランディング」や「ブランド」というものについて考えたことはありますでしょうか?日常生活の中では「ブランド品」や「ハイブランド」といった言葉で目にすることが多いと思います。またビジネスの中でも、少し前に「パーパス」というキーワードのもと、企業の社会的意義や存在価値を明らかにする動きが高まったことは記憶に新しいと思います。

最近では様々な書籍や記事で「ブランディング」について語られるものが増えてきた中で「ブランド」というものが持つ本来の意味や価値が矮小化(あるいは拡大解釈)され過ぎているのではないかと考えたのが本記事の背景です。本記事では「ブランド」というものを考える際に駆使する「ブランド思考」について解説したいと思います。

これは商品やサービスといったレイヤーの話だけではなく、事業さらには企業そのものの話として捉えることを主眼に置いています。ぜひご自身の業務範囲だけでなく事業や会社全体にも思いを馳せながら読んでいただければと思います。


1. 「ブランディング」 「ブランド」とは何か?

まずは「ブランディング」「ブランド」とは何かについて考えてみます。

ブランド論の大家であるDavid A. Aakerと近代マーケティングの父であるPhilip Kotlerはそれぞれの著書の中で「ブランド」を以下のように定義しています。

ブランドとは「組織から顧客への約束」である

『ブランド・エクイティ戦略』(David A. Aaker)

「ブランドとは、ある売り手または売り手グループの商品やサービスを識別し、競争相手と差別化するための名称、言葉、デザイン、シンボル、またはそれらの組み合わせである」

『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』(Philip Kotler)

これらの「ブランド」の定義を基に「ブランディング」とは何かを考えてみます。Aakerは著書の中で、
・ブランドとは「組織から顧客への約束」であるとしたうえで、
・その約束を果たすあるい約束を果たしてくれそうと思ってもらうための活動を「ブランディング」と捉え、
・「ブランディング」のゴールはブランド・エクイティ(ブランド資産価値)が高まっていること
としています。

【ブランド・エクイティの構成要素】
1. ブランド認知:消費者がそのブランドをどれだけ知っているか
2. ブランドロイヤルティ:ブランドに対する顧客の忠誠度
3. 知覚品質:消費者が感じるブランドの品質
4. ブランド連想:ブランドに対するイメージや特徴の連想
5. その他のブランド資産:商標や特許、流通網などの競争優位性の要素

『ブランド・エクイティ戦略』(David A. Aaker)

いきなりブランド・エクイティという掴みどころが難しい概念が出てきましたが、ここでこの概念を持ち出した意図としては、「ブランド」とは「顧客が抱くイメージや世界観のようなもの」だけではないということです(ブランド・エクイティの中の4.だけでないということ)。Kotlerの「ブランド」の定義でも、商品やサービスの識別性・差別性に触れている通り、多分に戦略性を秘めたものであると捉えることが重要です。

もう少し平たく「ブランド」と「ブランディング」を捉えてみると、
「ブランド」:企業・事業・商品/サービスが、ステークホルダーに対して「自分たちは皆さんに対して○○することを約束します!」と宣言したもの
②「ブランディング」:その「ブランド」がステークホルダーへの約束を果たすためのあらゆる取り組み
ということだと考えられます。

2. 「ブランド思考」とは何か?

「ブランド」「ブランディング」が指す意味を押さえたところで、記事タイトルにある「ブランド思考」について考えてみたいと思います。「ブランド」=「ステークホルダーに対する約束」であるとすると、まずはその約束とはどういうものなのかを明らかにしないといけません。

「約束」をさらに平たく捉えると、ステークホルダーの目線に立った時に、
その企業・事業・商品/サービスは、自分にとってどんな”価値”があるのか、すなわち、”自分のために何をしてくれるのか”、
を考えることが、「ブランド」を考えることと同値であると考えています。

これはブランド論の中でよく出てくる「ブランド価値」「ブランド提供価値」と言われているもので、さらに細分化すると「機能的価値」「情緒的価値」といった価値に分類されていきます(この辺りについてはまた別のnoteで)。
つまり「ブランド思考」とは「その企業・事業・商品/サービスが持つ、自分たちにしか言えない・自分たちだからこそ発揮できる独自の価値を見出そうとする思考」を意味しています。

決してきれいな言葉をひねり出したりきれいな世界観を描くことが「ブランド」を考えることではなく、その企業・事業・商品/サービスが世に発するべき自分たちのらしさ・独自性・価値を明らかにすることが「ブランディング」の第一歩です。

3. 「ブランド思考」がなぜ重要か?

「ブランド思考」によって、その企業・事業・商品/サービスが持つ独自の価値を明らかにすることができると、何がうれしいのでしょうか?「ブランディング」はともすると「自己満足」で終わってしまったり、「やって何の意味があるのか」と見られがちであることも現実としてあると思います。そんな中で「ブランド思考」に基づく「ブランディング」に取り組むことで企業や事業にとってのどんな意味があるのかを考えてみます。

昨今の企業を取り巻く環境変化や技術進展のスピードは凄まじい勢いで加速しています。企業が取るべき戦略や戦術もその影響を強く受ける中で、今後企業や事業が生き残るためのカギは「その企業だから、その事業だから、言えること/できること」をいかに見出せるかであると考えています。
一般論やセオリーをベースとした出来る・考えられることは、生成AIの力でいくらでもアイデア創出や戦略策定が可能になっています(これを私は「戦略のコモディティ化」と呼んでいます)。

その中で、市場での競争を勝ち抜いていくためには、企業・事業の独自価値をいかに見出せるか、そしてそれをいかに独自の戦略に落とし込めるか、さらに他社からの防御壁をいかに築きながら事業運営を行えるか、にかかっていると考えています。さもなくば人や金のリソースゲームに陥るか、競合との永遠の追いかけっこのような消耗するだけの世界になっていくことが容易に想像できます。

「慣例による延長線的な発想」で中期経営計画の焼き直しをしたり、「自社単体」での内向き思考で計画策定をしたり、「管理主義」による受動的な思考で戦略を検討したりしても、これからの市場を生き抜いていくことは難しくなっていきます。ステークホルダーにとっての自分たちの価値を徹底的に明らかにする「ブランド思考」に基づいて戦略・戦術を立て、事業推進を行っていくことがこれからの企業成長の肝になると考えています。

4. 「ブランド思考」で戦略に想いを込める

中長期的な企業戦略や事業戦略を支える「ブランド思考」の重要性について理解できたとしても、ステークホルダーにとっての自分たちの独自性のある価値や模倣困難な価値を見出すことは一筋縄ではいきません。

世の中には様々なビジネスフレームワークがありますが、「ブランド思考」の第一歩としてWill×Must×Canのフレームワークで価値要素の紐解きを行います。
・Will(意志):
その企業・事業・商品/サービスがこうあってほしい、こういう価値を提供したいというものは何か?
・Must(期待/ニーズ):
その企業・事業・商品/サービスが社会や生活者から求められているものは何か?
・Can(独自性):
その企業・事業・商品/サービスだからこそ発揮できる強みや特徴は何か?
これらの観点から必要な情報収集・リサーチや分析を行い、その企業・事業・商品/サービスが持つ独自性の高い提供価値を積み上げていきます。

特に肝となるCan(独自性)を見出すためには、
①「客観的な目線」で自分たちの会社・事業・商品/サービスを捉えること、
②「競合との表面的なスペックの違いではなく」、自分たちの組織風土や歴史といった非言語的な情報も含めて独自性のタネを集めること、
③今は持っていない独自性でもこれから新たな独自性を持っていくという視点を持つこと、
といった目線の幅の担保や、一つ一つの情報から得られるインサイトの深さ、将来も含めた時間軸で考えること、が大切です。

またこのWill/Must/Canのいずれかが欠けても片手落ちの「ブランド」になってしまうということです。例えば、Will(意志)はあってもMust(期待/ニーズ)が無ければただの所信表明になってしまったり、Must(期待/ニーズ)はあってもCan(独自性)が無ければ価格競争等の厳しい環境で戦い続けることになります。

Will(意志)を中心に企業・事業の想いを起点としながら、市場環境調査や顧客調査に基づくステークホルダーの期待/ニーズで検証を行い、自分たちらしさ/独自性をインサイトレベルまで深堀ってブランド価値として昇華していくことで、生成AIでも考えられる戦略にその会社固有の想いがこもります。
その時に初めて、その戦略や戦術が、その企業だからこそやるべき理由が見え、それに携わる社員のモチベーションとともにアクティベートされていく、というのが、「ブランド思考」で戦略に想いを込めることの本質であると考えています。

今回は「ブランド」「ブランディング」とは何か、そして「ブランド思考」で戦略に想いを込めるとはどういうことかについて見ていきました。これまでになく環境変化が激しい時代、生成AIによって人が介在する価値が問われている時代に「ブランド思考」を持つことの重要性はますます高まっているのではないでしょうか。

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