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冬原パトラ『異世界はスマートフォンとともに。』-がんばって旅行小説として読んでみる-

今回は、とあるオンラインコミュニティのメンバーである西住さんが紹介してくださった、冬原パトラの『異世界はスマートフォンとともに。』の第1巻に関連する文章を書いてみようと思う。西住さんのリンクを以下に掲載する。

はじめに

前回はわかしょ文庫の『うろん紀行』と、東海林さだおの『ショージ君の旅行鞄』に関する文章を投稿した。

『異世界はスマートフォンとともに。』(以下、『スマホ』とする)はいわゆる異世界転生系のライトノベルである。正直に申し上げて異世界転生系の定義は存じ上げない(そもそも定義が存在するかもあやしい)が、異世界に行ってなにかやるものが異世界転生系なのだと思っておく。私はこれまでに異世界転生系を読んだことがない。タイトルだけ知っているものを挙げると『この素晴らしい世界に祝福を!』や『ゼロの使い魔』があるが、内容はまったく知らない。今回『スマホ』で異世界転生系にはじめて触れたわけだが、読んですぐの感想は「旅行本のような内容だったな」だった。もちろん私たちがふつうに旅行するのと同じなわけはなく、魔物との戦闘や悪者成敗などは創作物ならではであるが、なぜかわからないが自分が思っていたような異世界感を感じられなかった。そこで、この記事では『うろん紀行』で旅行記のようなものを書いたのと同じように、『スマホ』を旅行本として読んだときにどうなるかを実験してみる。旅行本として読むから、異世界転生系ならではの戦闘の話などはここでは登場しない。この読み方は、ライトノベルや異世界転生系の楽しみ方として誤っているとは思っている。

プロローグは特に旅行要素がないため省略する。主人公が不慮の事故で死亡して異世界で第二の人生を歩むときに、手持ちのスマートフォンを使えるようにする、という必要な導入である。

言語の壁

第1章で異世界に降り立った直後、着ている服を売ってほしいとお願いされた主人公。街で新しい服を買ってくれることを条件に、今着ている服を売ってお金を得ることにした(異世界転生系で、お金という概念がない世界が舞台になっていることはあるのだろうか?)。

実はすでに不思議な現象が起きている。主人公は、会話はできるのに異世界の文字は読めないのである。このような状況は、私たちがふつうに旅行するときにはまず発生しないだろう。たとえば日本からアメリカに旅行するときを考えると、ありえそうな状況は

  • 英語を読めない、英語を話せない

  • 英語を読める、英語を話せない

  • 英語を読める、英語を話せる

であり、残るひとつの「英語を読めない、英語を話せる」人はそうそういないと思う。

スマホの地図

服を売ってお金を得た主人公はとりあえず寝床を確保するために宿屋に向かう。文字が読めない主人公は、どこが宿屋なのかわからない。そんなとき、転生する際に持ってきたスマートフォンの地図アプリで街を調べ、宿屋の位置と名前を確認した。最近の地図アプリは翻訳の機能も兼ねているから非常に便利である。翻訳機能を使わないとしても、国内の旅行でも地図アプリなしの生活は考えられない。インターネットやスマートフォンが普及する前は、事前に公共交通機関の行き先や時刻表、目的地の住所や所要時間などをその場で確認することは困難であるから、事前に調べるかガイドブック片手に行動するしかなかった。私はガイドブックのたぐいが好きで、幼い頃はキャンプ場のガイドブックを読んでどんな場所なのか想像したり、地元のラーメン屋がたくさん紹介されている本で行きたい店を探していた。今はスマートフォンひとつあればたいていのことはできてしまう。それでも、情報が限定されたガイドブックや、実際に五感で感じて思うことの良さはスマートフォンでは代替できないだろう。

食事

旅行の醍醐味のひとつに食事があるだろう。ギルドでの依頼で王都に向かう途中、武士らしい九重ここのえ八重やえに出会う。なんやかんやあって行動を共にすることになり、宿泊地点で一緒の食事をとる。作中では八重の食べっぷりが注目ポイントだが、旅行記として読むのだから食べ物をみてみよう。うどん、たこやき、焼き鳥……。あれ、日本にある食べ物と似ているような気がする。まあ気のせいでしょう。

おわりに

ここで取り上げた以外については異世界転生系の(おそらく)王道というか、戦闘や俺TSUEEEE要素だから、旅行記として読むのはこれでおしまいにしよう。『スマホ』は現時点で30巻も刊行されているらしい。なんでそんなに書けるのか。仮に自分に異世界転生した体験があっても、1巻を書くので精いっぱいだと思う。

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