SUMMER SONIC2023の振り返り。エンターテイメントを作る仕事のやりがい。
僕が経営している会社& Supplyでは、空間作りを事業としている。
飲食店等店舗の内装設計を初め、什器を作ったり、オフィスに壁画を描いたりするのが主な仕事。最近ではそこから派生してケータリングを請け負ったり等、多方面で空間づくりに関わっている。
その中でも、年間を通し、僕達にとって1年の集大成と言える仕事がSUMMER SONICのステージ装飾の仕事だ。
たった2日間のイベントのために、大勢の人が関わり作り上げるフェスはまさに大人の文化祭。刹那的な勢いも相まって、毎年記憶に残る大切な現場だ。
僕達は、ビーチステージという、幕張の浜に開設される野外ステージの装飾デザインを担当している。
SUMMER SONICの仕事は今回で4回目となり、毎年業務範囲も広がっている。2023年は介在領域が最も大きい年になり、比例して達成感も大きいイベントになった。
今回のnoteでは、自分達の記録も兼ねて、今年のSUMMER SONICで実施した仕事を振り返ってみる。
仕事の始まり
SUMMER SONICを運営するのはクリエイティブマンという会社。
僕達がSUMMER SONICの仕事をさせてもらえるようになったのは、運営会社であるクリエイティブマンのメンバーである友人がきっかけ。
5年前、会社員時代の後輩を介して知り合った彼女に、「サマソニで壁画を描かせてくれ!」と頼み込んでチームへ提案をしてもらった。彼女自身、GREENROOM FESTIVALで僕達の壁画を見てくれていたこともあり、トントン拍子で話を進めてくれ、壁画を描かせてもらえることに。
初めての仕事は、2018年のSUMMER SONICでの以下の壁画。
(仕事と言っても、僕達からやらせて欲しいと打診したこともあり、フィーは無く塗料費だけ頂く形からスタートしていた。)
2018年は、僕達が取り組んでいる壁画事業RELISHを発足した当時だったこともあり、「とにかく目立つ場所で描きたい!」と考えていたため、描かせてもらえるだけでありがたかった。
この壁画は評判が良く、翌年の2019年はビーチステージの壁画を制作。
そしてコロナを挟んで2022年はビーチステージの空間全体の装飾という仕事に業務範囲が広がってきて今に至る。こうして振り返ると感慨深い。
SUMMER SONICは都市型フェスで、幕張メッセとマリンスタジアムがメイン会場になる。そのためFUJI ROCKの様なアウトドアフェスと比べ、会場装飾の自由度は下がってしまう。
そんな中、ビーチステージだけは完全野外ステージ。装飾の自由度は最も高い。フェス感を盛り上げるため、サマソニチームとしても重要なステージなので、僕達クリエイティブチームも気合いが入る。
キービジュアル
ここからは、今年2023年の仕事を振り返っていく。
まず考えたのが全体の空間を通したキービジュアル。
空間イメージの統一化を図るため、場内の各エリアバナーはもちろん、印刷物や告知用グラフィックデータに適用できるパターングラフィックを作ることに。
ビーチステージでは、「BUENAS BRISAS:そよ風」をテーマにステージ作りをしているため、テーマに合わせて「風」を感じるモチーフに起点を設定した。
今回は風に旗が揺られているようにも、海面で波が揺れているようにも見えるパターンを制作。クリエイティブマンチームと協議し、色合いはオレンジ・黄色という明るいカラーを選択した。
ステージ横には、公共エリアからの観覧を防ぐための目隠しバナーを設置。
こちらは全長72mという超大型サイズ。「SUMMER SONIC BEACH STAGE」のタイポグラフィを有機的なタッチでイラスト化して再構成したアートワークに。目隠しという機能を果たしつつ、空間を盛り上げる色を添えてくれた。
エントランスゲート
ステージの目玉でもあるエントランスゲート。
ビーチステージは強風が吹き荒れるエリア。かなり強固に埋め込み・固定をしないと、装飾が風で飛ばされてしまう。そのため、ゲートは単管パイプを組みやぐらを作り、そこにパネルを貼り付けるアイデアに。くぐるようなゲートを作らず、5本の柱を立てて入り口を表現することになった。
初期提案のこんな感じのイラストを元に…
アートワークをデータ化していき…
こんな形で完成!
中央の塔から電飾を各塔に繋げてライトアップ。
各塔がフォトブースとしても機能し、ビーチステージならではの「フェスに来た感!」を演出することができた。
場内装飾:壁画
毎年恒例となっている壁画も制作。今回は、飲食エリアからステージへ向かう動線の壁画に加え、スケートランプにもアートワークを施した。
壁画はキービジュアルのパターングラフィックを活かし、海を思わせるライトブルーを組み合わせてカラフルに。前年に可読性が低いアートワークを描いたところ写真を撮る人が少なかったので、今回は「SUMMER SONICに来た!」という記念にしたくなるデザインを念頭においた。
狙い通り、イベント開催期間中は写真を撮る来場者を頻繁に目にした。僕達の壁画はただの装飾物ではなく、「行動を起こしてもらう」ことをゴールにしている。
フィーを頂いて制作をする以上、「そこにありなんとなく空間を良くする物」ではなく、「フォトブースとして撮影、SNSへの投稿を生み出すツール」として、イベントを拡散する役割を担うことを目指している。
壁画は開催日の2日前に現場入りしてデザインチーム皆で制作。加えて友人にも参戦してもらい、アートワークを仕上げていく。8月のビーチ、連日35度の猛暑の中の制作はかなり過酷だったが、ステージのリハの音が聞こえてきたりと、フェスならではの高揚がある楽しい時間だ。
さらに今年はスケートランプを設置するということで、ここにも壁画を施工することに。平面の総面積では過去最大級のサイズ。
まずは平面をオレンジに塗り、事前に紙に印刷してきた下書きを転写する。
立面であればプロジェクターで投影できるが、地面なので原始的な方法で下書きするしかない。強風で下書きの紙が飛ばされてしまうなど、四苦八苦しながらなんとか準備を進める。
その後、ひたすらペイント。35度の中、直射日光を浴び、更に照り返しを受けて過酷な暑さ。それでも仲間達と描く工程は楽しく、出来上がりを想像するとワクワクするのがこの仕事のやりがいだ。
この他はステージの細かい装飾も実施。日除けテントには、大量のマクラメやロープを使い、風に揺れるカーテンを設置した。マクラメとロープを買うだけで、当日ぶっつけ本番で施工したが、なかなか良い感じに仕上がった。
この装飾は個人的にとてもお気に入り。一つ一つ括り付ける工程もなかなかに大変だった。笑
飲食出店
空間作りを担当することに加え、今年は初めて飲食出店も実施した。
主催のクリエイティブマンチームから、「せっかく空間も入ってるから、飲食も出してみたら?」という言葉添えもあり、チャレンジしてみることに。
メニュー開発から事前仕込み、装飾向けのグラフィック作成など準備は盛りだくさん。食品を扱うため事前申請手続きも非常に多く、かなり大変だった…。抜け漏れなく事前準備を完璧に行わなければならないので、難易度が高いプロジェクトマネジメントの仕事。大変すぎて、もう一度やりたいかと言われたら微妙なところ。笑
だが、その分この出店から得られたことも多大にあり、振り返ると良い機会だったと思っている。
フェスの出店は準備はもちろん、支払う金銭的投資も大きい。キッチンカーを始め、あらゆるものをレンタル、もしくは新規購入して準備しなければならないため、初期投資がかさんでいく。事前の構想時から、初めての出店で利益を生み出すのは不可能に近いと考えていた。そんな中でも出店を決断したのは、野外フェスの現場にチーム全員で取り組む経験を重視したからだ。
結果的に、やはりビジネス面は赤字となってしまったが、そもそも利益を出せる形で臨んではいなかったので、この結果はある程度見越していた。
それよりも今回は、「楽しむ」ということを大事にして、各店舗を休みにして社員を総動員し、各自に自由時間を設け、フェス自体を楽しめるように設計した。
会社の経営的には、イベント期間の土日は各店舗を通常営業していた方がもちろん利益が生める。
でも、& Supply(僕達の会社)は外から見ても楽しそうな仕事をしていて、大きなイベントに関わる仕事も多い。それが魅力と思ってこの組織にいてくれているのだとしたら、デザインチームだけでなく、飲食チームも店舗の外でエンターテイメントに関わる仕事に携われる機会を作りたい。そう思って決断した出店だった。
フェス自体に参加することが初めてで、思い出になったという声もあり、エンターテイメントの仕事を少しでも感じてもらえたのであれば成功だったと思う。会社として全員で取り組む機会になり、いつもは別店舗で働くメンバーと一同に会して共に働くこともチームビルディングに繋がった。こういった機会は長く働きたい会社作りのためには非常に重要なので、今後も作り続けたい。
フェス出店の学びについてはここでは書ききれないほどあるので、また別のnoteに書いてみたいと思う。
フェスの現場は、大人達が本気で作り上げる文化祭
ステージ装飾と飲食出店を通し、連日35度を超える灼熱のビーチに滞在した4日間。
例年よりも担当したデザインの面積が多かったので、より大きな達成感を得たイベントとなった。
フェスの現場は、大人達が本気で作り上げる文化祭だ。
大勢の人が準備し、何もない場所にステージが出来上がり、アーティストのパフォーマンスで来場者を楽しませる。ステージ横で壁画を描いていると、本当に驚くほどの人が関わっていることを目の当たりにする。各ステージ毎に数百人が現場に入っているのではないだろうか。
灼熱の暑さと史上最高の動員数で大変なはずなのに、いつも丁寧に、ハッピーに快く対応してくれる、主催のクリエイティブマン運営チームの一同には本当にリスペクト。
イベント当日も、インカムを何個も付けて走り回って、来場者を楽しませることに一致団結して動き続ける。もちろんゆっくりステージを見たりなんてできないけど、全員がイキイキと仕事している。
そんな姿を横で見てると、毎年「すごいな、かっこいいな」と感じて、「自分もこんな風に場作りに取り組んでいきたい」と、原点に立ち帰れる大切な現場だ。
1年弱準備してきて、本番はたったの2日。一瞬のように終わってしまう。大変な準備は、会場で楽しむ人々の姿を見ることで報われる。一側面ながらも作り手側として関わることができて、エンターテイメントを作る仕事の面白さ、やりがいを心から感じられる貴重な経験をさせてもらった。僕達だけでなく、会社のメンバー皆へその体験を分けられた事も大きかった。
毎年自由にやらせてくれるクリエイティブマンチームの皆様に本当に感謝。来年もまたこの仕事に関われますように。
自分達も更にアップデートして、より良い体験づくりができるチームへと成長していきたい。