第18章 小型トーナメント初体験
第18章 小型トーナメント初体験
翔太がスロットを始めてから数ヶ月、少しずつ勝つことへの感覚を掴み始めていた。山口誠一の教えを胸に、技術と直感を駆使する彼のプレイスタイルは、以前の「ただリールを回すだけ」だった頃とはまるで別人のようになっていた。そんな彼に、ある日山口から新たな提案があった。
「翔太、そろそろ実践で腕試しをしてみないか?」
「実践…ですか?」翔太は首をかしげた。
山口は微笑みながら一枚のポスターを指差した。それは、地元のスロットホールで開催される「小型トーナメント」の告知だった。
トーナメントへの招待
「これはホールが定期的に開催しているイベントだ。参加者同士で腕を競い合い、誰が最も多くのメダルを稼げるかを競うんだ。」
「トーナメント…なんだか緊張しますね。」翔太は目を輝かせつつも、不安を隠しきれなかった。
「まあ、お前にはちょうどいい挑戦だ。勝つことも大事だが、何より多くの経験を積むことが目的だ。参加するかどうかはお前次第だが、こういう機会は滅多にない。」
翔太は一晩考えた末、参加することを決意した。彼の中で不安と興奮が入り混じり、新たな挑戦への期待が高まっていった。
初めての舞台
トーナメント当日、ホールには普段より多くのプレイヤーが集まっていた。受付でエントリーを済ませると、スタッフから簡単なルール説明が行われた。
「制限時間内に、指定された台で可能な限り多くのメダルを獲得してください。最終的にメダル枚数の多い上位3名が勝者となります。」
翔太は初めての形式に少し戸惑いを感じながらも、気を引き締めていた。「技術と直感、両方を使うんだ…」心の中でそう自分に言い聞かせた。
ライバルとの出会い
参加者の中には、明らかに熟練者とわかる人物もいれば、翔太と同じように初参加らしい若者もいた。その中で、特に目を引いたのは一人の女性だった。
彼女は短めの髪をなびかせ、淡々と受付を済ませている。どこか冷静で落ち着いた雰囲気を纏っており、周囲のざわめきに全く動じていない様子だった。
「彼女は…誰だ?」翔太は無意識に彼女に目を向けていた。
「彼女か?」隣に立つ山口が小声で教えてくれた。「あれは篠原美咲。若手の中ではかなり有名なプレイヤーだ。経験も豊富で、直感に頼るプレイスタイルが特徴だ。」
翔太は彼女の存在に緊張しながらも、どこかで彼女に近づきたいという思いが芽生えていた。
スタートの合図
スタッフの掛け声と共にトーナメントが始まった。参加者たちはそれぞれの台に座り、リールを回し始める。翔太も山口にアドバイスされた台に座り、慎重にプレイを進めた。
最初の数回は緊張のせいか手が震え、リールを止めるタイミングが微妙にずれることもあった。しかし、徐々に集中力を取り戻し、自分のリズムを掴み始めた。
「よし…大丈夫、落ち着いていけばいい。」
一方で、周囲のプレイヤーたちのプレイスタイルや動きが目に入るたび、翔太は心の中で焦りを感じていた。
篠原美咲との接触
ふと視線を向けると、篠原美咲が隣の台でプレイしていた。彼女の動きには無駄がなく、リールを回すたびに少量ながら着実にメダルを増やしていた。
「君、新人さん?」プレイの合間に、彼女が翔太に声をかけてきた。
「ええ、そうです。これが初めてのトーナメントで…」翔太が答えると、美咲は少し微笑みながら言った。
「緊張してるみたいだけど、悪くないリズムね。直感を信じて。技術も大事だけど、迷いすぎると勝てるものも勝てないわ。」
その言葉に翔太は勇気づけられた。「直感…信じてみよう。」彼女の言葉は妙に心に響いた。
初めての結果
制限時間が終了し、全員がプレイを終えた。結果発表では、上位3名の名前が呼ばれたが、翔太の名前はなかった。しかし、彼は失望よりも清々しい気持ちでいっぱいだった。
「やっぱり簡単には勝てないな。でも、これがトーナメントなんだ。」
美咲が近寄り、翔太に声をかけた。「初めてにしては悪くないわ。次はもっといい結果が出せるかもね。」
翔太は笑顔で答えた。「ありがとうございます。次はもっと頑張ります。」
山口の評価
ホールを出ると、山口が待っていた。「どうだった?」
「楽しかったです。でも、課題が多いなって感じました。」翔太は正直な感想を述べた。
「それでいい。勝つことも大事だが、そこから何を学ぶかがもっと大事だ。」山口は満足そうに頷いた。「次に挑むときは、今回の経験をしっかり活かせよ。」
翔太はその言葉に頷き、新たな挑戦への決意を固めた。
小型トーナメントという初めての舞台は、翔太にスロットの奥深さと競い合う楽しさ、そして自分の限界を知る大きなきっかけとなった。彼の成長は、まだ始まったばかりだった。