第32章 新たな目標
第32章 新たな目標
村上との一週間勝負が終わった後、翔太はホールの外に立ち、深く息を吸い込んだ。
長い戦いだった。
結果としては――翔太の勝利だった。
とはいえ、圧勝というわけではない。
細かいミスもあったし、運に助けられた部分もある。
だが、それでも翔太は勝った。
「自分の実力が、プロの領域に届きつつある。」
その実感が、彼に新たな覚悟を与えた。
しかし、村上は最後にこう言った。
「いい勝負だったが、お前はまだ『一人前』とは言えねぇな。」
「……どういうことですか?」
「本当の勝負師ってのはな、どこに行っても勝てる奴のことを言うんだ。」
「どこに行っても……?」
村上はポケットから煙草を取り出し、火をつけた。
「お前は今、このホールでは通用するようになったかもしれない。だが、全国にはまだまだ強い奴らがいる。結局、この業界は広いんだよ。」
翔太はハッとした。
確かに、自分はこのホールでの立ち回りには慣れた。
店の設定傾向も把握しているし、常連たちの動きも読めるようになった。
だが、それはあくまで「ここでの勝ち方」を知ったに過ぎない。
「本当にプロを目指すなら、もっと広い世界を知らなければならない。」
翔太の胸に、新たな目標が生まれた。
全国のホールを巡る決意
翔太は、誠一のもとを訪れ、村上との勝負の結果を報告した。
誠一は一言、
「よくやったな。」
とだけ言った。
しかし、そのあと、こう付け加えた。
「で? 次はどうする?」
「……俺、もっと強くなりたいです。」
翔太の言葉に、誠一はニヤリと笑った。
「だったら、ホールを変えろ。」
「やっぱり、そうですよね。」
「どのホールにも特徴がある。客層、設定、台の傾向……すべて違う。たった一つのホールで勝てたところで、それは井の中の蛙だ。本当に強い奴は、どこへ行っても勝てる。」
翔太は拳を握りしめた。
「全国のホールを巡って、自分がどこまで通用するのか試してみたい。」
それが、彼の新たな目標となった。
青梅竹馬・真理との別れ
翔太が新しい目標に向かって動き始めたころ、真理は少し寂しそうな顔をしていた。
「本当に行っちゃうの?」
「うん。もっと強くなりたいんだ。」
「そっか……。」
真理は幼なじみとして、ずっと翔太を見守ってきた。
彼がスロットの世界にのめり込み、成長していく姿を間近で見ていた。
そして今――翔太は「外の世界」へと旅立とうとしている。
「……翔太、無理しすぎないでね。」
「大丈夫、俺ならやれるよ。」
真理は小さく笑った。
「そういうとこ、昔から変わらないよね。」
翔太は照れくさそうに頭をかいた。
「また、必ず戻ってくるから。」
「うん。そのときは、もっとすごい話を聞かせてね。」
翔太は大きく頷いた。
こうして、彼の新たな挑戦が始まった。
新たな舞台へ
翔太は全国のホールを巡る旅に出るため、準備を始めた。
資金を確保し、各地のホール情報を調べる。
「関東には、プロ専用の『ガチ勢ホール』があるらしい。」
「大阪は、独自のローカルルールがあるホールが多い。」
「北海道には、一発台がまだ残っている地域がある……。」
調べれば調べるほど、新たな情報が出てくる。
「面白くなってきた……!」
翔太の胸が高鳴る。
これまでの勝負とは、また違う世界。
ここからが、本当の意味での「勝負」なのかもしれない。
翔太の旅が、今、始まる――。