第27章 山口の特別訓練
第27章 山口の特別訓練
スロットホールでの経験を重ねるにつれ、石田翔太は自信を深めていた。勝つことの快感、負けることの悔しさ、そして何より「自分のリズムを保つ」ことの重要性を学んだ。しかし、まだ翔太は本当の勝負師とは言えなかった。
そんな彼の前に、再び師匠・山口誠一が立ちはだかる。
「お前は、まだ勝負の本質を理解していない。」
誠一のその言葉が、翔太の心に突き刺さる。
「勝ちたいなら、俺の特別訓練を受ける覚悟はあるか?」
翔太は迷わず頷いた。彼はまだ、知らなければならないことがたくさんあると感じていたのだ。
勝負師の集中力とは
訓練の第一歩は「集中力」だった。
「勝負に必要なのは、情報をいかに正しく判断し、最適なタイミングで動けるかだ。」
誠一はそう言うと、翔太をとある喫茶店に連れて行った。そこはスロットホールではなく、静かな空間だった。
「ここで何をするんですか?」
「お前には、この店の中で起こっていることをすべて把握してもらう。」
翔太は意味が分からず、きょとんとした表情を浮かべた。
「誰が何を飲んでいるか、どの席にどんな人が座っているか、店員の動き、すべて頭に入れろ。」
「……そんなことして何になるんですか?」
「情報を集める習慣をつけるんだ。スロットも同じだ。何も考えずにレバーを叩くのではなく、状況を見極め、判断し、最善の一手を打つことが勝負の鍵 になる。」
翔太は周囲を見渡し、客の顔、服装、会話の内容、店員の動きなど、今まで意識もしなかった情報を頭に入れる努力を始めた。
すると、少しずつだが、店の「流れ」が見えるようになった。
「この席の人は常連だな。」
「向こうのカップルは初めてこの店に来たっぽい。」
「店員は新人とベテランがいる。」
今まで気にしたこともなかったが、意識すると驚くほど多くの情報が目に入ってきた。
「いい感じだな。」
誠一は翔太の成長を確かめるように微笑んだ。
「スロットホールでも同じように、情報を拾い、最適な判断ができるようになれば、一流のプレイヤーになれる。」
プレッシャーの中での冷静さ
次の訓練は、「プレッシャーの中での冷静さ」だった。
誠一は翔太を、スロットホールの中でも特に激しい雰囲気のエリアに連れて行った。そこでは、ベテランのギャンブラーたちが高額レート台で熾烈な勝負を繰り広げていた。
「ここで、お前には一定額の資金を与える。その資金を増やせ。だが、絶対に焦るな。」
翔太はゴクリと唾を飲み込む。
このエリアでは、周囲の空気が明らかに違った。冷静な表情のプレイヤーたちが、黙々と台を回している。彼らの目には迷いがなく、ただ勝負の流れを読んでいるようだった。
翔太もその空気の中に飛び込んだ。
しかし、いざプレイを始めると、焦りが出た。
「周りが大きく勝っている……俺も早く当てないと……!」
気づけば、冷静さを欠いたベットをしていた。そして、あっという間に資金が減っていく。
「クソッ……!」
そんな翔太の肩を、誠一がポンと叩いた。
「ほらな? これがプレッシャーの力だ。」
翔太はハッとした。自分は知らず知らずのうちに、周囲の空気に飲まれ、いつものリズムを失っていたのだ。
「ここで焦って取り戻そうとするのが、典型的な負けパターンだ。」
誠一は静かに言葉を続けた。
「勝負師は、どんな環境でも冷静でいられる。負けが続いた時こそ、一番大事なのは平常心だ。」
翔太は深く息を吸い、冷静さを取り戻す努力をした。
極限状態での判断力
最後の訓練は、「極限状態での判断力」だった。
誠一は翔太に、わざと厳しい状況を作り出した。残りの資金はわずか。あと一回転で、勝負が決まる――。
「こんな時、お前ならどうする?」
翔太は、台を見つめながら考えた。
今までなら、焦って適当に回していただろう。しかし、ここで大事なのは「自分のリズム」だった。
「まだ慌てる時間じゃない……!」
翔太は、台の挙動を見極め、最もチャンスのありそうな瞬間をじっくり待った。そして――
「今だ!」
リールを回す。
カシャン! カシャン! カシャン!
目の前に揃う絵柄。
「……揃った!」
翔太の手が震えた。極限状態でも冷静に判断し、最適なタイミングで勝負に出る。それが、誠一の求める「本物の勝負師」への第一歩だった。
翔太の成長
訓練を終えた翔太は、以前とはまるで違う表情をしていた。
「お前は、よくやった。」
誠一は満足げに頷いた。
「だが、これで終わりじゃない。勝負の世界にゴールはない。鍛え続けなければ、すぐに飲み込まれるぞ。」
「はい……!」
翔太は拳を握りしめた。
スロットは、ただの運の勝負ではない。集中力、冷静さ、極限状態での判断力――そのすべてが試される戦場だ。
そして、翔太はその戦場で生き抜くための力を手に入れ始めていた。
彼の戦いは、まだ始まったばかりだった。