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国立大学の学部増設の形態 番外編

前回は


 今まで、全国の国立大学の学部増設の経緯について述べてきましたが、トレンドと言える主な3つの類型について説明したいと思います。

文理学部からの発展形

 旧制高等学校を源流とする、文理学部の分離による学部の増設が、昭和30年代以降に圧倒的に多く見られます。
 これは、多くの大学で導入教育の部門として、学内措置で置かれていた教養部や分校を、正式な教養部という部局として追認する政策的な動向と、文理学部内での、研究教育の分野別の独立性が、大学の拡大につれて強くなった事が大きいかと思います。
 また、文理学部の教養学的な教育が、大学の導入教育のみに矮小化されて、大学教育全体に関連したものとして根付かなかった事も、分離の原因の一つに挙げられます。
 この時期に、文理学部を母体にした学部の多くは分離して、法学部・経済学部・文学部・理学部といった専門学部が設置されました。
 また、文理学部の分離の時期に設置された教養部が、主に教育組織であった問題が、永く教養部問題として、学生運動の時代を経て、大学内での関心事となり続けました。

教養部からの発展形

 教育が主体という、研究教育を行なう大学の中では中途半端な存在として、教養部の問題は学内の関心事となっていました。
 初期は、教養学部的な独立学部として、大学の導入教育と専門の研究教育を並行して行なう組織とする試みが、広島大学と岩手大学で行われます。しかし、その後に続く大学は現れず、平成3年に大学設置基準が大綱化し、教養と専門という区分が大学の裁量に任されて、やっと教養部を母体として、学部を設置する大学が出てきます。
 この時には、教養学部的な学部を設置するのではなく、一度教養部を解体して、再構成して新部門の学部を設置する傾向が現れます。教養の定義が、大学によって変化した傾向を受けてのものと思いますが、教養的なものより、専門の研究教育をより重視する、大学の姿勢の表れだと思います。
 教養にあたる導入教育については、多くの大学で全学で分担する形態になりましたが、規模の割には、小規模な教養担当のセンターが全学の調整を行なっている大学が一部で見られ、調整が大変なのではないかと推察されます。

教育学部からの発展形

 教員採用数が減少がしていた時期に、教員養成の教育学部の定員を調整した関係によって、非教員養成分野の専攻が教育学部内に置かれました。
 その後、一転して教員が不足する時代に入ると、非教員養成分野の専攻の多くは、元の教員養成の分野に定員が振り替えられますが、一部の大学では、非教員養成分野の専攻を母体として、新たな学部が設置されました。

3つの類型の特徴

 最初の文理学部の発展形は、主に昭和30年代以降に行われ、大規模総合大学への発展の契機となった大学もあります。
 2番目の教養部の発展形は、平成3年の大学設置基準が大綱化された時期以降に、多くの大学で見られ、情報や国際などの新規の研究教育分野を冠した学部が多く設置されました。
 近年の教育学部からの発展形は、比較的中小規模の大学で、福祉や美術などの、その地域に根差した学部の設置を後押ししました。

 どの時期もトレンドがあり、初期のトレンドは地域拠点大学の形成に影響を与え、中期のトレンドは、先端研究や文理融合などの独特な学部の設置を後押しし、後期のトレンドは地域の特性に合った学部の設置を進めました。

 ざっくりとした説明なので、個別の学部設置は、今までいくつか紹介した様に、もっと複雑な事情で設置されているのですが、多くは、先に挙げた3つのトレンドに収斂されるケースが、多くを占めているかと思います。

 学部増設について、ほぼ公式や非公式の学内外の文書から、その推移を推し量っているのですが、実際にはもっと色々なドラマが存在しているかと思います。今後は、いくつかの大学で既に紹介している様に、個別の大学のドラマまでに堀り下げた、詳しい記事を書いていきたいと思っています。


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たこま
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