マダムほいほい
家の近所に、年中、植物を綺麗に咲かせている一軒家がある。
大輪のピンク色のバラ。
玄関の横から壁側に竹と木を格子状にはり、その上にバラを這わせているのであるが、その這わせ方も美しい。
この辺りは、一軒家が多くお庭に植物を植えているお宅もたくさんあるが、このお家のお庭は、別格だ。
庭は道路に面しており、横幅は5ⅿくらいだろうか。決して広くはない。
だが、他のお宅とは比べものにならないくらい、
段違いに美しく、落ち着いていて、自然なのであるが、とにかくお洒落だ。
道側からお庭を正面に見ると、1枚の絵画のよう。
その佇まいは控えめでありながら、植物たちが何か楽しくお喋りをしているように賑やかで絵になる。「世界観」と言う表現が正しいのかもしれない。
私は、ガーデニングが好きでも、詳しいわけでもない。
むしろ、観葉植物をいつの間にか枯らしてしまうタイプなので、植物を上手に育てられる人を心から尊敬する。
そんな自分を棚に上げて言うのはなんだが、「ただ植物があればいい」という庭に魅力は感じない。
実家の庭が、まさにそうだったせいか。
ちっとも心休まらない庭だと思っていた。
母と父が好きなように(適当に)乱雑に埋め込んだ花や植木。
実家に帰るたび、今では何となくわかる。
このカオスな状態が、父母そのものなんだなと思う。
と、話がそれたな。
いい感じのお庭。「どこがどう」という説明が難しいが、このお宅の家のお庭は、自然の在りようを生かしていて、直感的に何か「素敵」で「非の打ち所がない」と感じるのである。
四季折々、このお宅の前を通るたびに写真を撮らずにいられない。
この素敵なお庭を作っているのは40~50代くらいの女性だ。
ある時、家の前を通りかかるとお庭の手入れをしていた。
その時期はお花はなく、その女性は軍手をしてなにか作業をしていた。
そして、それから暫くして、再びお家の前を通りかかると、庭にはお花と合わせられた緑がすくすくと育ち茂っている。
女性によってお手入れされたその植物たちは、風に揺られながら、まるでオーケストラのように協奏曲を奏でているようだ。
お庭全体が一体となり、何だかこちらに話しかけてくるイメージと言うのか。
どうやらそう感じているのは、私だけではなかった。
道路は商店街へ繋がる道のため、人通りも多い。
立ち止まって、お庭を見ている人を見かけることも、しばしば。
このお庭は、通りすがりの人の足を止め、時には一瞬にして見ている人の心を虜にしてしまうようだ。
この素敵なお庭のお宅から、少し進んだ所にパン屋がある。
ある日、私はパン屋へ向かっていたが、そのお宅の前で日傘をさしたマダム二人が何やら話をしながら、庭の埋め込みを熱心に覗いている姿を見かける。
マダム二人は、植木の下の植物をめくったり、土の部分を触ってみたりと、日傘を片手にしながらも中腰になりお庭に興味津々である。
その様子を見ながら、「そうでしょ、そのお庭素敵ですもんね。」
なんて思いながら通り過ぎる。
パン屋で買い物を済まし、緩やかな坂道をくだりながらお宅に近づく。
まだマダムたちはいるようだ。
そのマダム二人は、花から花へ、植物から植物へと導かれるように、植物を触りながら、もはやお宅の玄関の中まで入っているではないか。
おおお~(笑)
あのマダムらは、自分たちが随分とそのお宅の中に侵入してしまっていることに、いつ頃気が付くだろうか…(笑)
なんて思いながら、二人の様子を横目に下り坂を降りていく。
まぁ、マダムたちが蝶々のようにお庭に夢中になるのもよくわかる。
マダムほいほいのお庭。
それくらい、本当に素敵なお庭だ。
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