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道産子の詩

老人ホームでのエピソードを綴っています。


始まりは
「あんた、どこ出身?」
と、質問されるところから始まる。

「私は、や・ま・な・し」です。
「ふ~ん! 私は、ど・さ・ん・こ」

私が何処の出身かなんて関係ない。
アツコさんはただ自分が北海道出身だということを言いたいのだ。

それから次に歌を歌い出す。
良く聞き取れないので、分かるところだけ書くと

「はあ~おらが隣のさんぱつやろうが、四角四面の舞台の上で
踊り踊るにゃ おおそれながら~*********」
途中省略
最後、「ああ、売り手があっても、買い手が無い、買い手が無い」

聞いたことの無い歌詞だ。
ネットで色々調べてみたら、北海盆唄の歌詞は数え切れないほど存在するらしいので、これはアツコさんが育った地域だけの歌詞なのだと思う。
(誰か詳しいこと知っている人いるかしら?)

生まれ育った北海道へ帰りたいという思いがひしひしと伝わって来る。
「食べる物も美味しいんだよ~」
と、話す。

アツコさんは唯一の家族である一人息子と仲が悪くて、息子さんは殆ど面会には来ていない。
それに嚥下が悪いから、ゼリー食だの、高カロリージュースみたいな物しか口に出来ない。
だから、北海道の地に立つことはもう無いだろし、美味しい北海道料理もそのままでは食べられないだろう。


出身地というものは随分と身体に染み込んでいるものだ。
私は山梨出身なので甲州弁が身についている。
山梨出身の入居者様が居て、普段は殆ど普通に話をしているので感じないけれど、たまにその方が
「あ~ほうけ!」(「あ~そうなの」と言う意味)
などと言ったりするのを聞くと、もの凄く嬉しくなる。
たったこれだけのこと「あ~ほうけ!」だけで、心が温かくなる。


それで私は、アツコさんに「あんた、どこ出身?」と聞かれる前に
「アツコさんは道産子でしょ~」
と、声を掛けることにした。
するとアツコさんは、
「そうだよ。よく知ってるね~」
と、笑ってあのアツコソングを歌ってくれるのだ。
この歌がアツコさんを支えているんだな~。

私は盆踊りの風景やら、北海道の名物やら、たまには山梨の桃畑を想像しながら複雑な思いでその歌を聴いている。






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