人類 vs. 感染症 「新型」タンパク質が鍵に?(中)
前回の記事では、感染症がどのようにして広まったのかという点を説明するため、感染症の歴史を振り返りました。
では、なぜ未だに感染症が繰り返し発生するのでしょうか。そこで、今回は、感染症の要因を深堀りしてみます。
◉目次
①感染症の歴史 −人類 vs. 感染症 「新型」タンパク質が鍵に?(上)
②感染症の原因 −人類 vs. 感染症 「新型」タンパク質が鍵に?(中)
③感染症の予防策 −人類 vs. 感染症 「新型」タンパク質が鍵に?(下)
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②感染症の原因
と、ここまで読んで頂ければお気づきかと思いますが、人獣共通感染症は、文字通り、動物からヒトへ感染していきます。
ヒトからヒトへも感染してい行きますが、こちらは先に挙げた都市化や移動の易化等が関わります。
一方、感染の上流にある動物-ヒト間の感染は、より根本的な流入経路であるため、その発生源を深く考える必要があります。
そこで、動物-ヒト間の感染に関して、いくつか興味深いデータを示します。
まず、感染源の構成について。
ヒトはもちろん、ペットを含む家畜へのワクチン接種等、人獣共通感染症の対策が進んだ現在でも、人間がかかる感染症の4分の3が動物由来(※)で、野生動物だけではなく、その多くが家畜を介して人に感染すると言われています。
※残りの4分の1は、マラリア原虫やノミ・ダニ等の虫を含む寄生虫ですが、結局は動物に寄生して間接的に感染させる場合も多いです。
次に、感染源となる動物について。
その家畜に関して、世界には牛15億頭、豚10億頭、羊12億頭、ヤギ10億頭と鶏230億羽がいると言われています。一説には、一年で720億匹から1500億匹もの陸上動物が捌かれているとも言われ、現在の世界人口が80億人弱であることを考えると、その膨大さに圧倒されます。
ちなみに、地球上の鳥類の30%が野鳥で、残りの70%は鶏を含む家禽類との報告があります。哺乳類に至ってはさらに顕著で、36%の人間に対し、家畜が60%を占め、野生種はわずか4%に留まります。
予防接種や衛生管理がされていない野生動物からの感染はもちろんリスクを孕んでいますが、後述する理由からも、家畜に関するこの数字は注視する必要があります。
そして、感染経路について。
現在主流の集約畜産では、一旦病原体が家畜に感染する("spill over"=漏れ出す)と、こうした数の家畜が「貯水池」や「増幅器」として働き、感染が爆発的に拡大すると言われています。
人間ですら3つの密が集団感染のリスクを上げることは常識になっていますが、その人間の何倍もの家畜が、いわゆる「三密」状態にあることも手伝い、汚染された糞便、餌や水等を経由して、飼育施設内で感染が増加します。
そして、飼育施設や食肉処理場で従事者に直接感染したり、汚染された乳や卵を始め、解体時に内臓や糞便から汚染された肉を摂取・接触することで、ヒトへ感染していきます。
一方で、豚インフルや鳥インフルのように、家畜が今回のウイルスを媒介するかどうかという点は、まだ判明していません。
ただし、今回のウイルスは、イヌ科やネコ科、イタチ科等、哺乳類への感染が既に報告されており、類縁ウイルスがウシやブタ、ニワトリ等の家畜にも感染することが確認されています。
類似のMERSはラクダが中間宿主となり、食肉処理場等からヒトへ感染が広がったとされています。
スペイン風邪も、鳥インフルエンザウイルスがヒトに感染しやすい型に変異したものとされています。
いつまた変異してパンデミックを起こしてもおかしくないと言われ、発生時には数人に1人が感染、世界で数億人が死亡する等、コロナすら凌駕するとの試算もあります。
従って、ウイルスが家畜に感染し、時には変異し、家畜が感染を拡大(野生動物から家畜へ、家畜からヒトへ"spill-over")する可能性については、今回に関しても注視する必要があります。
感染症がもたらす被害について。
こうしたデータに表されるだけではなく、炭疽症や天然痘、麻疹、百日咳等、家畜を媒介した多くの感染症に人類が苦められてきたことは歴史が物語っています。
現代でもよく問題になるものだと、致死率が50%超とも言われる強毒性の鳥インフルや、世界で14億人が感染し、パンデミックの初年のみで数十万人が犠牲になったと言われる豚インフルがあります。
また、家畜の消化管や内臓等に寄生し、食中毒を誘発する、サルモネラ、カンピロバクター、大腸菌(O-157等)や、E型肝炎等の原因となる肝炎ウイルスも挙げられます。
食中毒なら、嘔吐や下痢程度かと思われるかもしれませんが、牛や豚に起源を有するノロウイルスにより、子供を中心に毎年数十万人が命を落としています。カンピロバクターは、ギラン・バレー症候群という、全身に力が入らなくなり、時に呼吸困難に陥る難病を発生させることがあります。
また、世界を震撼させた、脳が萎縮する狂牛病(BSE)やヤコブ病(vCJD)も、牛の中枢神経系に生じた異常プリオンが病原体と言われています。
さらに、世界の豚肉生産の半分を占める中国では、去年からアフリカ豚熱(旧称アフリカ豚コレラ)ウイルスが猛威を奮っています。ヒトに感染しないと言われる一方で豚自身が命を落とし、供給量が半減(世界の豚肉の4分の1に値)したことで価格が倍増する等、COVID-19の蔓延も重なり、食料供給にまで影響が出ているようです。
こうした負の影響の大きさから、
「感染症は家畜がくれた死の贈り物」(ジャレド・ダイアモンド)
「工業畜産は人類史上、最大の罪の一つ」 (ユヴァル・ノア・ハラリ)
とまで、語る学者もいます。
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今回は、感染症がなぜ未だに発生するのか、ということを説明しました。では、どうすれば感染症の繰り返しがなくなるのでしょうか。そこで、次回、感染症の根本的な対策を紹介しようと思います。