無数の情報、自分を保つには――小林真大『生き抜くためのメディア読解』(笠間書院、2021年)評
2022年、新しい「学習指導要領」が全国の高校で導入される。大きな変更があったのが「国語」で、これまで文学作品などを素材に、文章内容の理解に主眼を置いてきた国語教育に対し、「論理的・実用的な文章」であったり、文章のスタイルであったりをも学ぶかたちに代わっていくことになった。
「論理的な文章」とは法律文や説明文、論説文など、「実用的な文章」とは広告やマニュアル、カタログなどのそれを指す。一方で文章のスタイルとは、そのメッセージがどんな形式で伝達されているかを指す。「文学作品のない国語なんて!」と早とちりしないでほしい。この変更には意味と背景がある。
これらはどれも、情報化が進んだ社会のなかで、私たちがさまざまなメディアからのメッセージを適切に読み解いたり、あるいはそれを適切に発信したりできるようになるのに不可欠なもの。いわばそれは、現代的なメディア・リテラシーの養成を目的とした変更である。だが、そうした新しい観点からの教科書や副読本は未だほとんど見当たらない。
このニーズに正面から応えたのが本書で、ニュース記事や広報、ブログ、企画書など、さまざまな形式のメディアとそのメッセージを批判的に読み解く方法について、それぞれの形式ごとにわかりやすく解説する。著者は朝日町出身の国際バカロレア文学教師。
本書がユニークなのは、ニュース記事や製品マニュアルなどのみならず、報道写真や雑誌の表紙、政治家の演説文など、多彩な形式のメディアに光があてられ、分析されている点だ。いわれてみれば確かに、私たちの大半は、無数の情報メディアを環境として生きている。そのすべてに、私たちを特定の方向へと動かし、導こうとする意図がある。
そうした意図の洪水のなか、自分というものを保とうとするには、最低限自らがいかなる意図に曝されているのかを自覚する必要がある。その意味で、本書の示すリテラシーの方法論は、2022年の高校生のみならず、現代を生きるすべての人びとにとって基礎教養となるだろう。(了)
※『山形新聞』2021年11月17日 掲載