論理的整合性などを検証――東谷暁『エコノミストを格付けする』(文春新書、2009年)評
エコノミストとは、大学に籍を置く経済学者やシンクタンクに所属する研究員、あるいは経済評論家など、経済動向や経済政策についての現状分析や政策提言を仕事とする人びとを指す。バブル崩壊以後、日本経済の低迷が常態化し、そこからの脱出が模索されるにあたり、彼らの言説に対する需要、すなわち「エコノミストの市場」は拡大の一途を辿ってきた。
とはいえ、構造改革、財政出動、金融緩和など、経済(学)の専門家であるエコノミストたちが激しい論戦を交えつつ提示する多様な処方箋は、素人の私たちには理解しがたく、しかもその優劣となると、もはや判断は不可能である。経済の動向や政策が私たちの生に及ぼす影響の大きさを考えるならこのリテラシーの欠如は問題だ。
本書は、専門家ではない私たちがエコノミストの言説を判断する際の手がかりを提示すべく、経済動向や政策に関する主要な論者たちの議論の軌跡を辿り、その時間的一貫性や論理的整合性、論証の有無などの点から丁寧な検証を試みたものである。扱われているのは、竹中平蔵や金子勝、森永卓郎、中谷巌など40名。2003年に出版され話題を呼んだ『エコノミストは信用できるか』の続編。著者は、日本経済に関する著作も多いフリージャーナリスト(大蔵村出身)、しかし彼自身は経済学の専門家ではないという。
IT革命や不良債権処理などを扱った前著に対し、本書が主なテーマとしているのは、昨年末のアメリカ発世界同時不況をめぐる経済言説の混迷である。アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)前理事長アラン・グリーンスパンの手腕や経済学者ポール・クルーグマンのインフレターゲット論など、エコノミストたちのお手本となってきた経済学的権威が失墜したのを受け、彼らがどうふるまったかについて本書は多くの頁を割く。私たちはそこに、論者たちの誠実さの度合いを見て取ることができる。これもまた判断材料だ。本書を叩き台に、私たちの経済言説リテラシーをあげていこう。(了)
※『山形新聞』2009年10月18日 掲載