天下りの資金源を可視化――北沢栄『官僚利権 国民には知らされない霞が関の裏帳簿』(実業之日本社、2010年)評
著者は本紙夕刊「思考の現場から」でもおなじみのジャーナリスト。『公益法人 隠された官の聖域』『官僚社会主義 日本を食い物にする自己増殖システム』『静かな暴走 独立行政法人』等の著書がある。現代日本官僚制の実態を、市民目線から丁寧に記述してきた著者が、前著『亡国予算』に続き、官僚利権の根源を成す「特別会計」の闇を暴く。
特別会計とは、国の基本的経費を賄う一般会計とは別に設けられ、特別の必要(例えば、道路・空港整備、年金管理、財政投融資など)によって区分経理され、所管府省庁によって管理・運用されている会計のこと。現時点では21の特別会計が存在し、ガソリン税などの目的税、保険料などを財源に特定の事業を実施している。
著者の試算では、その実質的な資金規模は一般会計(純計)37.1兆円の4.6倍、(純計)169.4兆円にあたる(2009年度予算)。しかも、一般会計の負債状況が約350兆円の債務超過(財政赤字)であるのに対し、特別会計のそれは約100兆円の資産超過(財政余剰)という潤沢さである。家計にたとえるなら、巨額かつ豊富なヘソクリに等しい。
問題は、このヘソクリが、それを管理・運用する各府省庁により、官僚の「天下り」ルート確保に使用されている点にある。彼らは、「随意契約」という手法で独立行政法人を養い、それが今度は傘下の系列公益法人に業務を委託し、さらにはそうした法人群が関連企業に仕事を発注する。つまり、特別会計とは、官僚たちの天下りネットワークの資金源なのである。この問題の構造を、あらゆる角度からあぶりだし、丁寧に可視化したところに本書の最大の意義がある。
これらは、著者のライフワークともいえる息の長い取り組みによって初めて可能となったものだ。公益法人や独立行政法人、天下り/渡りなど、個別の問題は、すべてがこの官僚利権ネットワークを根源にもつ。その全体構造を俯瞰できる本書は、行政改革の実態に関する入門書として最適である。(了)
※『山形新聞』2010年08月22日 掲載