本屋をアップデートせよ――内沼晋太郎『これからの本屋読本』(NHK出版、2018年)評
ヘンな本だなあ、というのが本書を目にした第一印象。本書は、上部の両隅が切り落とされた、将棋の駒のようなかたちをし、ページをめくると章ごとに段組みが異なっていたりする。さらには、「別冊」とよばれるパート――「本の仕入れ方」のノウハウがしくみとともに解説されていてここだけでも読む価値あり――が色紙で本の中心に組み込まれている。装丁やデザインに遊び心がある。そう捉える人も多かろうが、実はこれらは、本書が繰り返し訴えるある主張をデザインにおいて再現したものである。その主張とは、「本屋のありようをアップデートせよ」というものだ。
いまさら繰り返すまでもないことだが、日本の書籍出版の世界は現在、大変な苦境のなかにある。新品の紙の本の売り上げのピークは1996年で、書籍・雑誌の合計は2兆7000億円。一方で2017年のそれは1兆4000億円で、この20年ほどでほぼ半減したことになる。あちこちの街から本屋や書店が姿を消し、人びとから紙の本が遠ざかっていった。背景には、インターネットを嚆矢とするデジタル化の趨勢があり、電子書籍の広がりもその延長線上にある。要するに、情報や知識を得るのに、紙の本でなくともよくなったのだ。
だが、そうした厳しいデータの一方で、昨今、従来あまり見かけることがなかったような「小さな本屋」や「ヘンテコな本屋」の誕生や盛況についての語りや記事を目にすることがしばしばある。本書の著者が経営する「本屋B&B」――B&Bとはbook and beer、つまりビールも飲める本屋であり、毎日日替わりイベントを行っているというのが売りになっている――もそのひとつだ。そうしたユニークな本屋の存在は、すでにピークアウトした書籍出版のありかたに再考を迫る根拠のひとつである。取次を中軸とするこれまでの本の届けかたとは違う何かが求められている。
だからこそ著者は言う。本屋をアップデートせよ、と。ネットで代替しえない何か――たとえば、予想もしなかったような本との出会い、本を介した人との出会いなど――がそこにあってこそ、人はわざわざ本屋に足を運ぶ。だからこそ「これからの本屋」には、これまでとは異なる覚悟と方法とが求められる。「ダウンサイジング」と「掛け算」、「本業に取り込む」か「切り離す」か、本屋のありかたは、著者が示すこれらの方針に照らせば無限に拡張できる。いろんな本屋があっていいし、あるべきだ。私たちの社会の未来のために。自分だったらどんな本屋をつくろうかと、想像力を掻き立てられる一冊である。(了)
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