状況判断をするに役立つ「研究マインド」
こんにちは。早川琢也です。
修士課程と博士課程を通して、それなりの年数をかけて研究活動をしてきました。
その過程で、大量の研究論文を読んで研究計画を立てる練習をして、
博士論文を書く経験までは積むことが出来ました。
ある程度まとまった時間をかけて研究に触れてきた経験は、
確かな学びとして自分の中に活きていると実感しています。
これまで読んできた研究論文で得た知識は間違いなく貴重ですし、
研究者としての基盤になる物です。
ですが、無形の財産としてその知識以上に貴重だと感じている物は、研究で使う思考です。
これがどう役に立つかと言いますと、色んな場面での物事の判断をする際にとても役に立っています。
スポーツ指導や科目指導に限らず、自己学習やもっと身近な問題が起こったときに、
研究論文を書くようなステップで考えていくと、
結構スッキリと問題を整理出来たり、問題を解決する方法を見つけられると思います。
ここからは、実際の思考のプロセスを研究論文になぞって説明してみます。
※今回は内容盛りだくさんになってしまったので、ポイントだけサラっと読みたい方は、目次の「研究プロセスの要約」から読んで読んで下さい。
イントロ:状況把握
研究論文の書き出しは、イントロダクションから始まります。
イントロでは、今現在自分が分かっている事と分かっていない事を過去の研究論文や成果を参考にしながらまとめていきます。
論文や研究成果を参考にするのは、「これは自分が思いついた事ではなく、客観的な事実や成果に基づいた言葉」であることを示すためです。
そして、1つだけのデータに頼らず出来るだけ色んな角度から見ていきます。ここは研究論文でも同じです。意見の偏りを無くすために、出来るだけ多くの情報を使うようにします。
例えば、あるサッカーチームのコーチがここ最近負けが続いているのでこの状況を何とかしたいと思ったとします。
色々スタッツを調べてみたところ、直近の10試合中9試合で後半35分以降に失点していることが分かりました。
このように、関心のある事について色々データを使って把握していく作業が、研究のイントロに当たります。
研究の目的:解決すべきポイント
そうやって状況を整理していると、「この問題が解決するとブレイクスルーしそうだ」というポイントが見えてきます。
上記のサッカーの例ですと、後半35分以降に失点する理由を明らかにしたら、そのチームの連敗を防ぐ方法が見つかるような気がしてきます。
この「後半35分以降に失点する理由を明らかにする」が、研究の目的(解決したらブレイクスルーしそうな事)に当たります。
仮説を立てる:問題が起こる原因ってこれじゃないか?
研究論文では、ここで仮説を立てます。言い換えると「色々調べた範囲で問題ありそうな場所の目処を立てる作業」とも言えます。
先程のサッカーの試合を例で考えてみましょう。
単純に後半35分に失点する理由を考えたとしたら、
戦術に問題があるのか?(個人技術?チーム戦術?)
疲労が関係しているのか?(栄養不足?前日のコンディション?)
気持ちに変化があったのか?(ストレス?集中力?)
など、考えられる理由が山ほど出てきてしまいます。
しかし、1つ1つしらみ潰しに検証すると永遠に終わらなくなってしまいます。
そこで、「事前に調べた範囲の枠組みの中で検証する」という、いわば条件付きの中で検証する形を取ることで、研究として形にすることが出来ます。
先程の例ですと、後半35分に失点する理由を疲労に注目して、特に前日練習で疲れているのではないか?といった仮説を立てることで、
少なくとも原因が前日練習かどうかについては検証することが出来ます。
方法:どうやって問いを解決する?
方法では、どのように目処を立てた事が問題があったかどうかを分析する方法を計画します。
先のサッカーの例の場合、前日練習の疲労をチェックすると問題があるかどうかが分かりそうです。
そこで、何を使って疲労度を測るかを検討します。
色々検討した結果、練習後に血中のコルチゾールの量を測るのが疲労を測ることにしました。
試合前日の練習後に調べるだけだと比較する物がないので、疲労が抜けているであろうオフ明けの練習後と比較することにしました。
1回ずつだけだとたまたまの可能性もあるので、それぞれ10回ずつ測定しました。
結果:分析した結果
研究論文の「結果」では、分析した結果のみを記載します。
先の例だと、10回ずつ採ったコルチゾールの量を統計処理で分析して出てきた数値が結果になります。
仮にですが、「分析してみたところ、オフ明けの練習に採ったコルチゾールの量と比べて、試合前日の練習後に採ったコルチゾールの値の方が圧倒的に高かった」ことが分かったとします。
これが結果になります。
考察:結果から何が分かったか?
そして考察ですが、ここは結果が意味することを説明するパートです。
ここでは、実験の状況を引き合いに説明することもしますが、
「他の研究成果や論文で説明されている内容と同じ、もしくは異なる」
といった具合に客観的な情報も使ってその理由を説明します。
先の例だと、
「試合前日の練習内容と強度は、追い込み練習と変わらなかった」(だから疲れてしまいコルチゾールが高かった)
「コルチゾールが高い状態でサッカーや他のスポーツをすると、パフォーマンスが低下することが色んな研究で言われている」
と言った具合に結果に対する説明をしていきます。
ここまで説明することで、
後半35分に失点が多いのは、前日練習での疲労が残ったまま試合に入っていて、その結果後半になると疲労でパフォーマンスが落ちてしまい失点していた。
と言えます。
ここまで分かると、次は「じゃあ前日練習をもっと軽い練習にしたら疲労も残らず翌日の試合のパフォーマンスが高まって失点も減るかもしれない」
といったアイディアが浮かぶでしょう。
このように検証を繰り返していくことで、データと仮説に基づいた判断が出来ます。
研究のプロセスの要約
ここまで研究の流れを長々と書いてきました。
簡単にまとめると、
・色々調べて状況整理
・問題はどこにありそうか?
・その問題、どうやって解決しようか?
・分析したらこんな結果が出てきた
・その分析結果が意味するのって、つまりこう言うこと
と言った具合になります。
さすがに、事あるごとにここまで緻密にデータを採って検証してまたそれを繰り返して、なんて事はしません。
ですが、もう少し簡潔に下記のような事は割とよくやります。
・1つのデータに頼らず、複数のデータを参考にする
・印象が強烈な出来事に対しては、感情のまま判断せずに一旦落ちつてからデータや事実を把握してから判断しようとする。
・統計処理された数字だけを見て反射的に判断しないで、データが意味するところまで考えるようにする
日常生活では、色んなところで数字やデータが出てきますが、データ自体はまだ何も意味していません。
データは人が意味づけして初めて意味を持ちます。
研究をしていると、こういったデータや事実を見る目が養えます。
結局はバランス
近年のスポーツは何でも細かく統計を使ってデータ化する事が出来ます。
それこそ、映画「マネーボール」みたいにあらゆる事を統計で数値化して最適な方法を弾き出すことは可能でしょう。
ですが、統計によって最適化した手段をただこなすだけがスポーツなのか?という疑問も出てきます。
統計を使ったり、研究目線で物事を分析すれば、勝利や求める結果には効率よくたどり着く事が出来ます。
ですが、物事や場面によっては、自分の気持ちに任せて行う方が納得感や満足感は得られると思います。
経験と科学、0か100かのどちら一方がいい、ではなく、
両者を自分の判断でバランスよく使いこなすのが結局一番最良の方法なのかな、と思っています。
ここまで長々と書いてしまいました。
お付き合い下さりありがとうございました。
早川