❖南蛮お菓子のおかしな位置づけ❖ まいに知・あらび基・おもいつ記(2021年12月19日)
(長さも中身もバラバラ、日々スマホメモに綴る単なる素材、支離滅裂もご容赦を)
◆南蛮お菓子のおかしな位置づけ◆
南蛮文化とか南蛮由来とか言われて何をイメージするだろうか。鉄砲、地球儀、時計、メガネ、オルガン、ヴィオラ、カルタ、タバコ、金平糖、油絵など色々ある。その中でも、長崎の地と強い結びつきを持っているのが南蛮菓子の代表格である「カステラ」だろう。カステラは室町末期にポルトガル人によって長崎に伝えられたとされている。ポルトガルには昔からパン・デ・ロー(pão de ló)と呼ばれる焼き菓子があり、それがカステラの原型に近い。また名称の「カステラ」は漢字では加須底羅または家主貞良と表記され「かすていら」と呼ばれていたようだ。それはイベリア半島西部のポルトガル王国とは別にイベリア半島中部にあったカスティーリャ王国のパン(またはお菓子)を意味する「pão de Castela/Castilla(パン・デ・カスティーリャ)」のポルトガル語発音に由来するらしい。カスティーリャ王国は1479年にイベリア半島東部のアラゴン王国と統合(同君連合を形成)し、スペイン王国になっていて、このスペイン王国とポルトガル王国は王族の婚姻関係を結ぶ風習があり、ポルトガル宮廷料理人が書いたレシピ本『料理法』の中にカステラと同じ製法のお菓子の記述があったようで、両国の食文化の交流が名称の由来にも関係していると考えられる。
こうして西洋から伝来したカステラだが、時々「かすてら」と平仮名表記されることがある。マリトッツォ、モンブラン、ティラミスなど西洋のお菓子はカタカナ表記されるのが一般的で、これらの平仮名表記は見かけない。しかしカステラはカタカナ表記も平仮名表記も同じくらい見かける。この違いは日本に伝わってきたタイミングが影響している。一般的に和菓子は漢字または平仮名表記、洋菓子はカタカナ表記であるが、この和菓子と洋菓子の区別は、明治になってから伝わったかどうかで考えられている。そして明治以前に伝わった「カステラ/かすてら」は、西洋からもたらされた異国のお菓子という歴史的事実を背負いながら、和菓子洋菓子の区別が生まれた時期には既に日本に伝わっていたため、便宜上、和菓子の一つになっているのである。だから明治を基準にした和菓子の概念で捉えれば「かすてら」となる。しかし日本発祥のお菓子かどうかを基準とした和菓子の概念で捉えれば、それに該当しない点から「カステラ」となるのだろう。つまり「カステラ/かすてら」は、「洋菓子ではないが南蛮菓子である和菓子」という「おかしなお菓子」なのである。
さてこの「カステラ/かすてら」だが、私が頻繁に利用するセブンイレブンではこれまで4種類の「カステラ/かすてら」の存在を確認している。その4種類とは、「しっとり上品な味わいカステラ」、「スプーンで食べるふわふわかすてら」、「ふんわり玉子の風味がかおるしっとりかすていら」、「バターカステラ」である【情報の収集】。
そしてやはりというべきか、似たような商品があるとそれを比較してみるとどうなるだろうかと素朴に考えてしまう、私のいつもの癖が発動した【課題の設定】。4種類の「カステラ/かすてら」にドトールの商品を加え、今回はヴェン図で考えてみることにした【整理・分析】(スライド参照)。
ヴェン図から分かることは(もちろんサンプルが少ないので通俗的帰納法に過ぎないが)、カタカナ表記は、文字のカクカクとした力強さやインパクトが感じられ、「カステラ」が主役になっている。それはonly oneという印象である。これに対して平仮名表記は、文字に柔らかさがあるため、他の言葉の「しっとり」や「ふわふわ」と自然に混ざり合い、全体が作り出す優しさを構成する部分として協調性を感じる。それはone of themという印象である。明治以来の区分上、「チーム和菓子」の一員と考えるならば「和を以て貴しと為す」の精神に根差した後者の表記がふさわしいかもしれない。ただ、純粋に日本発祥でないことで、実際には「チーム和菓子」の一員と見做されていないことに対する反発の気持ちから、アウトローにカタカナとして自己主張したくなるのも分からなくもない。そこには「カステラ/かすてら」にしか分からない複雑な心境があるのだろう。これは国籍などのアイデンティティの問題とパラレルな関係ではないだろうか【まとめ・表現】。食問答はこれからも続く。