森田療法~森田正馬「不眠症」の事例
森田療法の創始者である森田正馬先生の事例を挙げていきます。
森田は1900年代初頭に、数少ない日本発の療法として森田療法を築きあげました。
森田療法とは今で言う、社交不安障害やパニック障害、強迫神経症等のいわゆる森田神経質症に対する精神療法を言います。
当時はフロイトの精神分析が無意識を概念として取り入れ始め、精神医学や臨床心理学の基礎を構築していました。
おそらくは当時においてフロイトが時代の先覚者であったのではないかと思います。
そういった中で、森田は独自の考察と実践により、論理的にフロイトの理論の矛盾や誤りを指摘しました。
これは時代の先覚者に対してよほど自分の理論と実践に確信なくしてはできないことであったのではないかと思います。
さらに、今とは異なる医療技術の中で、身体症状に出る心因性の病とそうでないものをきちんと見分け診断し、驚くべきほどの治療実績を残しています。
その著書を読むにつけ、それから約90年たった現在においても色褪せない考察と実践には驚愕させられます。
その著書の中から一部抜粋します。
心悸亢進発作、今で言うパニック障害の事例と思われます。
この患者は夜寝ている時の発作に悩まされていました。
森田は初診でそれが器質的疾患ではなく精神性のものであることを診断し、次のように言いました。
「今夜、臥辱する時に、その発作が最も起こりやすいという横臥位を執り、自分から進んでその発作を起こし、しかもその位置のままで苦痛を忍耐し、かつ発作の起こり方から、その全経過を熱心に詳細に観察するようにしてください。そうすれば私は、あなたのその体験によって、将来けっして発作の起こらない方法をお教えする。もし、このために、今夜いかに劇しい苦痛があって、徹夜するようなことがあったとしても、長い年数の苦痛と不安を取り去ることができれば、十分それを忍耐する価値のあることである」
その後私が再診したときには、患者は「その夜私が教えたように実行したけれども、自分で発作を起こすことができないで、そのまま5分間もたたないうちに眠ってしまった」とのことであった」(「神経質の本態と療法」森田正馬)
なんだか狐につままれたような話ですね。
これはパニック障害や対人恐怖症などの恐怖症に対して、あえて恐怖に突入させるという現在の行動療法で言うところのエクスポージャーやフラッディングという技法と近似しています。
また、逆説的指示と同様です。
森田の著書を読むにつけ、治療者側の確信と断言が患者の不安を支えている、そんな気がしてならないのです。
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