ベルナッツ(ショートショート)
秋の森に入ると、ときどきリンリンとどこからか鈴を転がすような音が聞こえてきます。
大抵は鈴虫の羽音なのですが、ときどきベルナッツが転がる音であることがあります。
ベルナッツというのは、鈴、つまりベルの形をしたナッツです。
その実が熟すと、勝手に木から転げ落ち、コロコロと転がっていきます。そうしてある程度、親の木から離れた後は、森の動物たちが、この木の実から鳴る、鈴のようなリンリン、という音に触発され、転がして遊んでいるうちに、より遠くまで運ばれる、つまり、広い範囲で増えることができる、という寸法です。
この木の実を見つけるのは少し難易度が高いです。
なぜかと言えば、森の中の、どの動物が、どの方向に、どれくらい移動させるか、が分からないからです。つまり、このベルナッツを落とす木が生えている土地でも、十分に熟した木の実が見つからないということが往々にしてあるのです。
それでもなんとかこの木の実を見つけることができたなら、ぜひ、ベルナッツバターにして、パンに塗ってみてください。
一口頬張った時の食感と、その音をじゅうぶん楽しんでいただけること請け合いですので。