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読書感想文: オッペンハイマー 原爆の父はなぜ水爆開発に反対したか

オッペンハイマー 原爆の父はなぜ水爆開発に反対したか(著:中沢志保、中公新書、1995)



映画『オッペンハイマー』公開にあわせて読んだ。
オッペンハイマーという人間がよくわからなくなった。
いや、わかりたいから読んだのだが、映画を観て本を読んでますますよくわからなくなった。
矛盾している。原爆開発・核の国際管理は推進するが水爆開発は非難する。
「科学者は罪を知った」と言いながら。
そして戦後は水爆開発を止めようとして推進派に恨まれ赤狩りにあう。いわゆるオッペンハイマー事件。
大きく矛盾したオッペンハイマーの人生。
本書の言葉を借りるなら、
「コスモポリタニズムを志向しながらアメリカの原子力政策における政治的利害に大きく拘束されていたオッペンハイマーの生涯自体が、まさに国際政治の現実的な一面を写し出している」。
本書を読んだ感想は、オッペンハイマーという人物に抱いたのは、実に愚かで情けなく、しかし科学の推進に深く関わり、同時に呆れてしまい、最終的に地位や名誉を奪われ可哀想にも思い、そしてオッペンハイマーの生涯を通じて、人間のできうる底知れぬ感情と可能性にとても恐怖した。
本を読んでいるこちら側もこのように矛盾した感情を持たざるを得ない。
この本自体は非常に丁寧に慎重に書かれているから書いてあることは「よくわかる」のだが、そこから浮かび上がってくるオッペンハイマーという人物像、言動は謎が多い。というか理解し難い。
そしてその「理解し難い」人物像が「国際政治の現実的な一面」をも表していると知った時、もう恐怖しかなかった。

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