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世界と繋がり合えるなら(羽田光夏) 読書感想文

詩集 世界と繋がり合えるなら(著:羽田光夏、読書日和、2020)


この『詩集 世界と繋がり合えるなら』は全盲の詩人でnoterさんの羽田光夏さんの詩集である。

全体的に優しい詩篇で構成されており、あたたかな包み込まれる印象を受けた。どれも日常の一篇を書かれており、親しみやすい詩集であった。

今回は詩集から七篇詩を選んで感想を書いてみたいと思う。

欠片

君は不器用な僕の欠片を拾い集める
僕はそんな君に背を向けて
未だ見ぬ世界に思いを馳せる

君は目の前の扉を何度もノックしている
僕はその扉の鍵を閉めて
車に乗り込み町へと急ぐ

(以下略)

なんともミステリアスな詩だと思った。なかなか「僕」という人は「君」に対して天邪鬼のように思える。
しかし、

(前略)

君は砕け散った僕の欠片を捜し歩いている
全部拾い集めたら
君の指は
また僕を描き出すのだろう

君が描いた物を見て
僕の指は小刻みに震えていた

どうやら「僕」という人は人ではないのかもしれないと思った。
「僕」が震えるほどの「君が描いた物」とはなんなのか。
そして「僕」と「君」の不思議な関係性である。
一瞬私の中では「花火」が思い浮かんだが、どうもそうでもなさそうで、しかしどことなくこの詩に書かれていることはわかる気がしてくるから不思議で面白かった。

パズル

キスの仕方がわからなくても
二人繋がり合えますか
勝手な欲望で走り書きした地図の上
行き着く場所は
そことは限らない

秘密がうまく隠せないけれど
愛を交換できますか
拙い愛情で書き上げてみた設計図
組み合わせると
一つの絵になる

真っ白な心で
塗りつぶした
あなたへの手紙

ここに書かれている二人は不器用だけどとってもいいなあと思う。思わずキュンとしてしまった。純粋(うぶ)な二人の愛というパズル。

染色

一欠片でもいいから
あなたの心を
私に分けてよ
霧がかかった満月に
祈りを捧げる

(中略)

一滴でいいから
そのDNAを
注ぎ込んでくれたら
励ましもありがたい言葉も
必要ないよ

何にでもなれる
物言わぬ熱情

あなたの中で
私は私になれる

染まり行く色
混ざりあわない

美しい性の営み(生きる上での営みという意味でもあり)の詩。
「一欠片」「満月」「DNA」という言葉たちから子を生みたいという愛の形、性の営みの詩であると思った。
それがいやらしくなく書かれていてとても素敵である。


(前略)

魚になったあなたは私の海を泳ぐ
鼓動を聞きたくて

この感覚がすごいと思った。
「私」を海に喩えて「あなた」を魚にして泳がせるという魂と体の躍動がこの一節だけで見事に表現できていると思った。

ビート

あなたのビートをちょうだい
弾けたいんだよ
壊れたいんだよ
気持ちいいビートをちょうだい
今なんかいらない
その先が見たいの

どうしてさあ
そうやって自分を押し込めるの
どうしてさあ
そんな風に周りに流されていくの

やりたいことやろうよ

激しいビートをちょうだい
ジャンプしたいんだよ
ロックしたいんだよ

(以下略)

「私は高校生の頃、自称Rock少女でした」と『あとがき』にあった。この詩からもRockを感じた。まるでRCサクセションの歌詞だなと思った。

いっそ

(前略)

いっそこの心開いて
全部を打ち明けてみようよ
少しずつだけど
分かってくれるはず

この地を旅立って私は
何になれるんだろう
この地を後にする勇気も
すぐに手にできるだろう

きっといつか
笑い合える日が来るね

以心伝心というものを書いているように思った。そしてこれは羽田光夏さんの自叙伝なのかなと思った。

長く真っ直ぐな一本道

(前略)

突き進むことが
全てではない
ちょっと立ち止まって
周りの風景を見るのも悪くないよ
だってその風景の中に
本当の答えが隠れているかもしれないから
地図を見ながら行くよりも
その方がずっと面白いって

だから
今はこの静かな時に
身を委ねている

(以下略)

という箇所からはサン=テグジュペリの『星の王子さま』の中でキツネの言う台詞「ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。いちばんたいせつなことは、目に見えない」を思い出した。



『長く真っ直ぐな一本道』の羽田光夏さんご本人による朗読。


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