午後0時のきたはまーぼ。
北浜の街角に佇む、こじんまりとしたカレー屋に入ると、店内に広がる香りがまず僕を包み込む。香ばしいスパイスの匂いと、ほのかな甘さが混じり合い、汗ばむ夏の空気に溶け込んでいる。店内は木目調のテーブルが整然と並び、薄暗い照明が微かに床を照らしていた。静かで落ち着いた空間だ。ここで、僕はいつもカレーを食べる。決して豪華ではないが、心地よい居心地の良さが漂っている。
「こんにちは、今日も暑いですね」
カウンター越しに顔を出したのは、30代の女性、店主の彼女だ。彼女はスラリとした体つきで、肩までの黒髪をすっきりとまとめている。笑顔が人懐っこく、初めて店に来た日から、僕はこの笑顔に少しずつ心を許していた。彼女はいつも変わらぬ調子で、僕に声をかけてくれる。それはささやかな日常のやり取りだが、どこか特別な安心感をもたらす。
「本当に暑いね」と僕は言いながら、常連の席に腰を下ろす。窓際の小さなテーブルで、通りを行き交う人々を眺めるのが、僕のちょっとした楽しみだった。
彼女が今日のランチメニューを説明してくれる。スパイスカレーとマーボ豆腐。意外な組み合わせだが、彼女の手にかかると不思議と調和する。彼女のカレーは、いつも一筋縄ではいかない。複雑な香りと風味が、僕の舌を心地よく刺激し、いつもどこか遠くの国へ連れて行ってくれるような味わいだ。今日は、そのカレーに加えて、辛味とコクが際立つマーボ豆腐が添えられる。
「スパイスカレーとマーボ豆腐、何か特別な意味があるんですか?」と僕は尋ねる。彼女は少し微笑んで、「特に意味はないですよ。ただ、カレーのスパイスと豆腐の辛さが合うと思ったんです」と答えた。
僕はその答えに満足して、彼女の勧めるままに注文した。料理が運ばれてくるまでの間、店内に流れる静かなジャズが、心地よいバックグラウンドとなっている。日差しが強く、窓ガラス越しに射し込む光がテーブルの上で踊るように揺れている。
やがて、スパイスカレーとマーボ豆腐が運ばれてきた。見た目からして、想像以上に美味しそうだ。カレーの鮮やかな色合いと、豆腐のつややかな表面が、目の前で見事に調和している。僕はスプーンを手に取り、一口ずつその味を確かめる。スパイスの刺激が舌先に広がり、その後に豆腐の柔らかな辛さが追いかけてくる。まさに彼女が言った通り、二つの味が絶妙に絡み合っている。
「これ、すごく美味しいですね」と僕は彼女に言った。
彼女はただ微笑み、またカウンターの向こうへと戻っていった。その笑顔は、言葉にできない何かを含んでいたように感じる。
スパイスカレーとマーボ豆腐。その不思議な組み合わせに、僕は夏の暑さを忘れ、しばしその味わいに身を委ねた。外の喧騒とは無縁の静かな時間が、僕の心を満たしていた。