竹中望

たけなか のぞむと申します。 実話怪談や、短い小説など書いています。

竹中望

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マガジン

  • 見たくないけれど

    実話怪談を書きたい人間によるフィクションをお届けいたします。つまりは実話でも怪談でもない小説です。

  • クロユリ怪談集

最近の記事

あの稽古場には幽霊が出る。  若い女で、ひとりでダンスの練習をしている。  何でも昔、自分の才能を見限り、そこで首を吊ったとか。  そんな噂に興味を持って、職員の権限を使いちょっと調べてみた。でも、自殺が起こったなんて記録はどこにも見当たらない。所詮は嘘、ただの噂だ。  でもどうしてだろう。  誰もいないはずの夜の見回り、あの稽古場の窓から女が見える。

    • どうしようもなくて大嫌い

       どうしようもないことというのは、紛れもなくあるわけで。それは、こぼした水をもとの器に戻せないことであり、宇宙でものを投げたら何かにぶつかるまでまっすぐ進み続けることであり、寝坊をしたら授業に遅れることでもある。寝坊はともかく、こぼれた水にも、投げられたものには何の罪もないし、それ自体が自分をコントロールできるわけでもない。  だから、仕方がないのだ。  学校で軽いいじめにあっていることも、仕方がないのだ。  中学校に入学して一ヶ月もすると、私はもうみんなに無視されていた。

      • そこは未だ

         沖縄本島に住んでいたBさんは、夏休みに家族と離島の方へ旅行に行った。  今回の旅行を楽しみにしていたBさんたちだが、不安なことがあった。Bさんの妹がやけに島を怖がったのだ。島に着いた時点で怖い、怖いと言いながら震えている。  実はBさんの妹は、家族の間では霊感持ちとして通っている。そんな彼女が怖がっているというのは、つまりは「そういうこと」なんだろうとBさんたちは理解した。本来の予定では戦争の際に住民が滞在していたガマを巡るはずであったが、この調子では無理と判断し、海の方へ

        • 終末思考

           今日も昼食は食べなかった。  朝と夜は両親が見ているので食べなければならないが、昼なら二人ともいない。台所に昼食を作った痕跡がないと言われれば、外で済ましてきたというだけだ。いい年なんだからそろそろ自炊なさいとしつこく言われはするが、無視を決めこむ。それがここ最近の日常だ。  私は生きていくのが面倒になってきている。ご飯だけではない。寝る準備をするのも面倒だ。毎晩深夜二時過ぎに寝ては、親に怒鳴られている。そんなに遅くまで何をしているのかというと、スマホをいじったり、本を読ん

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        • 見たくないけれど
          2本
        • クロユリ怪談集
          6本

        記事

          祭りの夜に

           Kさんが母親と、東京某所で開かれたお祭りに向かったときのこと。  お祭りの会場である公園の近くに来たときには、あたりはすっかり暗くなっていた。人通りの多い道へ早く行こうと急いでいると、前から人が近づいてくるのに気がつく。見たところ、どうやらおばあさんのようだ。そのまますれ違おうとすると、おばあさんが声をかけてきた。 「盆踊りは、どこでやっているの?」  Kさんたちが行こうとしていたお祭りは盆踊りもやることになっていた。そのため、たぶんその会場である公園を教えたらいいはず

          祭りの夜に

          つまりは無害

           東京の大学に進学したことをきっかけに、Bさんは一人暮らしを始めた。住んでいたのは、とあるアパート。入学前に不動産屋へ行ったときに紹介され、すぐそこに決めた。トイレにキッチン、風呂も完備されており、それでいて手頃な家賃。学生にとっては願ったり叶ったりな物件だった。  ただ、住み始めてしばらくしてから気づいた。自分が今住んでいる部屋と似たような条件の物件を比べてみると、家賃が違いすぎたのだ。自分の部屋の家賃は、相場の約二分の一ほどの金額だった。当時は東京の地価なんて詳しくなかっ

          つまりは無害

           とある大学の旧校舎には、以前こんな噂があった。  地下にある舞踊などの練習室、昔そこで一生懸命ダンスを練習する学生がいた。しかし、なかなかうまくならない。自分の才能のなさに絶望したその学生は、とうとう練習室で首を吊り、自殺してしまった。  それからというものの、練習室にはその自殺した学生の幽霊が出るようになった。  そんな噂だ。  しかし、すでにそんなことはなかったとわかっている。この噂を教えてくださったKさんはかつてその大学の学生であり、現在は職員である。大学に就職し

          先生

           イマジナリーフレンドの話だと言って、Kさんが教えてくれたものだ。  Kさんには、7歳の頃から他の人には見えない誰かが見えていた。名前はわからないが、「先生」と呼び慕っていた。  当時Kさんはいじめにあっていた。殴る蹴るの暴行もあるひどいいじめだったが、親に言うことはできなかった。しかし「先生」だけには打ち明けられた。こんなひどいことがあったのだと報告するたび、「先生」は優しく言葉をかけ、抱き締めてくれた。  その後も、辛いことがあると「先生」に報告し、慰めてもらった。嬉し

          雨が降る

           Tさんは中学生の頃、学校から帰ったあとリビングのソファでゆっくりと漫画を読むのが習慣だった。  その日も家に帰っていつものようにソファに座り、漫画を開いた。しばらく読んで、ふと顔を上げる。  部屋に雨が降り注いでいた。  ざあざあと勢いよく降っている様子を見て慌てたが、すぐに気づいた。部屋が全く濡れていない。ああ、これは幻覚なんだと納得し、漫画に目を戻した。  数年後。Tさんは某事故物件公示サイトの存在を知った。つい自分の住む地域を検索してしまう。  事故物件なんてそうそ

          雨が降る

          自転車の子

           Mさんが小学生の頃の話。  ある日の夏休み、Mさんは散歩に出掛けた。  彼女は普段から俯きがちな姿勢で、歩くときはいつも地面を見ている。この日もそうだった。すると、正面からチリンチリンと自転車のベルの音がする。思わず顔を上げて道の端へと移動した。向こうからやって来るのは、小学校低学年ぐらいの子ども。風をきってMさんの右側を通りすぎる。危ないな、と思いながら何気なく目で追い、後ろを向いた。  その子どもはどこにもいなかった。  ちょうどMさんのいた位置のすぐ後ろは2つの分

          自転車の子