噂

 とある大学の旧校舎には、以前こんな噂があった。

 地下にある舞踊などの練習室、昔そこで一生懸命ダンスを練習する学生がいた。しかし、なかなかうまくならない。自分の才能のなさに絶望したその学生は、とうとう練習室で首を吊り、自殺してしまった。
 それからというものの、練習室にはその自殺した学生の幽霊が出るようになった。

 そんな噂だ。
 しかし、すでにそんなことはなかったとわかっている。この噂を教えてくださったKさんはかつてその大学の学生であり、現在は職員である。大学に就職したとき、学生時代からあることがきっかけでずっと頭の片隅にあったあの噂を、ふと調べてみたくなった。それで大学内の記録を片っ端から見てまわったところ、そんな事件など起こっていないことがはっきりとわかったのだ。
 では、この話はすべてが単なる噂にすぎないのか。そうではないと、Kさんは言う。

「学生時代には何人もの人が、あそこで女性の幽霊を見たって言ってたらしいですよ。見た人の中には、噂のことなんて全く知らない人もいたそうですし」

 でも、そのことだって噂にすぎないのでは。そんな疑問を投げかけようとしたそのとき、Kさんは言葉を付け足した。

「私だって、見た人の一人ですから」

 そして、自身の体験について語り始めた。