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最速レポート:ラーム・チャラン期待の最新作『GAME CHANGER』を観る
延期に次ぐ延期で皆を悶々とさせた、ラーム・チャランの最新作『GAME CHANGER』が2025年1月10日にやっと公開された。
テルグ語版なら英語字幕がある可能性が高いので、テルグ語版を観に行った。残念ながら英語字幕無しだったが、GLOBAL STARというどでかい文字を背負ってRAM CHARANの文字が画面に浮かんだ瞬間の感慨ったらなかった。
大筋はWikipediaやネットの記事に任せるとして、本作は、高潔な州政府高官ラーム(ラーム・チャラン)と、対する悪徳政治家Bobbili Mopidevi(『ジガルタンダ』のSJスーリヤ)が、父子二代にわたる因縁の対決を繰り広げる政治娯楽作品。所謂「選挙へ行こう」映画。
監督は『ロボット』等で知られるタミルの監督、シャンカル。さすがはタミル映画なだけあって、「人民のための政治」が強調されていた。
批評としては「シャンカル映画にしては」いまいちだという意見も見られるものの、作品としては充分楽しい。特に、ラーム・チャランの活き活きとした表情や、楽しんで映画をやっている余裕、加齢から来る威厳、そして、己の弱い顔も見せる演技の幅など、ラームチャラン映画としては申し分ない出来。
一部日本のファンは、あの2019年3月、西川口での「VVRの悲劇(喜劇)」を忘れてはいまい。『ランガスタラム』の次の期待作だったのに、驚きの不連続なシーンと訳の分からないアクションにより全員がずっこけたあの日を。今回もそれを怖れ、半ば期待して見に来たが、いい意味で裏切られた。
ラーム・チャランは、未だに学生時代役をそのままやっても全く違和感がないというのにも驚かされる一方、そろそろ「おじさん」として脱皮して欲しいなという気もしていた。前半は学生時代を演じていた。
若い頃のラームは怒りを抑えられないキャラであり、怒りを抑えるために様々な努力をした結果、交差点で警官に止められたときに怒りを抑える踊りを踊りまくる。これが可笑しい。
しかし、うーん、これはこれでいいけれど…と思った。もう40歳くらいだから…。
しかし後半、時代が飛んで、父親Appanna役として出て来てからの彼は、理想を持ち、挫折し、再び希望を持ったのにまたその夢に破れるという「弱い」顔を見せた。
『ランガスタラム』『RRR』で、ラーム・チャランはそういう「弱い人間」の顔を見せることに成功している。哀しみと場末と苦しみの空気が漂ってくるのだ。あのきれいな顔に。彼は、田舎か制服が似合う。
今回も、父役で田舎の男の純朴さと挫折を表現し、息子役では制服を着こなしている。着こなしているというか、一体感があり過ぎてちょっと滑稽だ。詰襟の服が似合い過ぎており、ほとんど「幽遊白書」に主演できそうだった。
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SJスーリヤの芸達者ぶりは言うまでもないが、Appannaの妻Parvathyを演じたAnjaliも印象的だったし、現代のヒロインKiara Advaniも、短い出演時間ながら、ダンスシーンとドラマシーンの両方で光っていた。
テルグ映画だが、ハイデラバードはほとんど映らず、Vishakapatnamの海岸の風景が何だか新鮮だった。
シャンカル映画のダンスシーンは、色使いが独特で極彩色の人々が土の上で踊りまくるのが印象的。今回はネット上で公開された歌が入っていないということでがっかりした人もいたようだが、充分楽しんだ。
今回英語字幕が無くてセリフが分からなかったが、分からなくてよかったのかもしれないなあと思った。タミルの世直し選挙映画は、どうしても説教臭くなるし、正義というものはそんなに単純ではないような気がする、という気がしてしまうからだ。シャンカルは『Indian 2』でインドの群集が「己に正義があるはず」という虚構の思い上がりをしがちであることを指摘してみせた。今回の作品にはそういう意味での深みはないかもしれない。
書いてみて思ったが、今回は奇想天外なシーンも少なく、ラーム・チャランの『RRR』その後の経過は順調だということを知らせる映画になっていると思う…が、ラーム・チャラン好きにはもうたまらん映画であることは間違いなし。それに、私の頭がインドの映画に慣れて、ある意味劣化してしまって、「これはすごい」というシーンを認知できなくなっている可能性もある。
NTRの新作『デーヴァラ』も日本公開が決まっていることだし、本作も当然、日本で公開されるはずなので、ぜひ解説や字幕と共に、ラーム・チャランの元気な姿を堪能していただければ(って私が作ったんじゃないじゃん何言ってんのよ)。