乃木坂46に泣かされた朝
空なんて見上げてない。
前だけを見て、毎日、迫りくるミッションたちをクリアするだけだった。
知らないうちに何かに追い込まれていた。
ヘトヘトになって家に帰り、すぐに冷蔵庫から缶ビールを取り出して、とりあえず飲む。
そこから、テレビの前に座って、チビチビ飲み始めるが、テレビはついているだけで、観ていない。
今日の仕事の結果を振り返り、明日の仕事の予定を考えている。
朝目覚めて缶コーヒーを飲んだら、準備して仕事に向かう。
職場まで車で約30分、今日やる事の段取りに頭を巡らせている。
次から次へと現れる猛獣に、ボロボロになった刀で立ち向かう感覚だった。
今思えば、もっと要領よく、もっと柔軟に、仕事にも人にも対応する事も出来たのかも知れない。
でも、その時の僕には、立ち止まってじっくり考えてる時間は無かった。
体も気持ちも疲労しきっていた。
仕事変えようかな、とさえ考え始めていた頃だ。
朝の通勤途中、ラジオから乃木坂46の曲が流れてきた。
そして、僕は車を止めるしかなくなった。
なぜだかわからない。
苦しかった胸がスッと開いて、勝手に涙がこぼれた。
その曲が『何度目の青空か?』だった。
乃木坂46の存在は知ってはいた。
AKB48の公式ライバルとしてデビュー。ライバルだがAKB48とは全然雰囲気の違う女の子達。西野七瀬という恐ろしく内気で大人しそうな子がセンターになったりした。
それぐらいの情報は持っていた。曲も聴いた事がある。
でも、それは聴いたというより、テレビやラジオから聴こえてきてたと言ったほうが近い。
その朝もそうだった。ラジオから聴こえてきてただけだった。
涙が出るとは思ってもいなかった。
何度目の青空か
数えてはいないだろう
日は沈みまた昇る 当たり前の毎日
何か忘れてる
この次の青空は
いつなのか分からない
だから空見上げ なにかを始めるんだ
今日できることを
詞も曲も、のびやかな歌声も、全てが心に沁み込んだ。
なんだか、薬が効いていくみたいだった。
空を見上げる事なんて、すっかり忘れていた。
昨日の天気さえ、はっきり覚えてもいない。
青空をちゃんと見たのなんて、いつのことだったろう?
ふ~っと息を吐いたら、気持ちも体も軽くなっていった。
僕はまた職場へと車を走らせた。
それから『何度目の青空か?』を購入し、知らなかった曲たちを聴き、次はどんな曲が出るんだろうと楽しみにするようになった。
今もこうして乃木坂46を「聴いている」のは、あの日の朝がキッカケだったのは間違いない。