シェア
武耕治郎
2021年9月4日 21:34
本編目次 第1話 ブラックなんでしょ『ー放送は以上です。残りの問いに取り組みなさい』「…」「CD止めないと」「あっ、停止っと」 追憶に耽っていた遠藤は、危うく他の問題まで流すところを、中島に助けられた。 埃を被った機材、色褪せた注意事項の貼り紙、乱雑に置かれたCDケース、カーペットに染み付いた独特の匂い。ずっしりと重たそうな暗幕が開け放され、普段は暗く陰鬱な放送
2021年7月26日 19:11
本編目次第1話 ブラックなんでしょ 教室の机が教卓側に寄せられている。間もなく清掃開始の号令がかかる。教室後方の広く空いたスペースの壁沿いに、詰めて生徒が並んでいる。とはいえ、整然としている訳ではない。一日の授業を終え、生徒も疲れが溜まっている。所々で私語もあり、落ち着きがない。「今日は、掃除の前に、改めて分担を決めます。全員その場に座る」 いつもと違う流れに、生徒らは顔を見合わせ
2021年7月28日 20:43
本編目次 第1話 ブラックなんでしょ「周りのクラス見ていると、担任が注意すれば生徒も言うこと聞いてるし、うちのクラスと同じ清掃方法で上手くいってるように見えるんですけど、それはやっぱり指導力ですかね…」「まあ、それもあるかもね。でもさ、指導しなくて済むように工夫するのが一番重要な指導力だよ。生徒指導でも何でもそうだけど、何か問題が生じたとき、あるいは予見されるときは、生徒の前に、システム
2021年7月30日 15:09
本編目次 第1話 ブラックなんでしょー指導しなくて済むように工夫するのが一番重要な指導力ー この点において、遠藤が中島に教わったのは、清掃分担と秘密兵器導入だけではない。清掃の意義向上を狙った学級活動もその一つだ。 ある日の6校時目、学活の後半30分ほどを使って、遠藤はそれを試すことにした。「今から、このクラスの課題の一つに挙げている、清掃に関する活動をします」 遠藤のクラス
2021年8月3日 07:32
本編目次 第1話 ブラックなんでしょ「そこまで。えー、散らかし王は、佐藤君ですね。拍手。では、この後の帰りの会で話す予定だった連絡をします。今日の放課後の集まりはー」 生徒たちは、散らかした直後とあって落ち着きはない。体の向きも横向きだ。中にはわざと後ろを向く者などもいるが、遠藤は構わずそのまま連絡を終えた。「はい、では今度は片付けます。全員起立してか片付け、終わっ
2021年8月7日 08:00
本編目次 第1話 ブラックなんでしょ 遠藤は、清掃指導以外でも、中島に教わった効率的な仕事術を、積極的に取り入れていく。 例えば、追い出し指導だ。 帰りの会終了後の生徒は、部活など諸活動へ行くか、速やかに下校しなければならない。しかし、すぐに教室から退室せず、留まり続ける生徒がいる。大抵はおしゃべりに夢中なだけだが、いつまでも生徒だけで教室に残り下校しないようなことがあれば、帰りの遅
2021年8月7日 19:20
本編目次 第1話 ブラックなんでしょ「帰りの会の中でやるようなことは、帰りの会の前に生徒が終わらせるようなシステムにしてるよ」「明日の授業の連絡とか、手紙配付とかは…」「どれも帰りの会の前に生徒が終わらせるよ。配付物は配付係、明日の授業の連絡は教科係が背面黒板に記入」「反省コーナーだけで生活・授業・清掃の3つぐらいはありませんか」「授業の反省は、帰りの会までに学習委員が教科係から授
2021年8月8日 08:08
本編目次 第1話 ブラックなんでしょ チャイムが響く。慌てて席に着く生徒たち。急ぐそぶりも無く悠々と自席に戻る者もいる。いつものことだが、歯がゆい思いがこみ上げる。全員の着席を見届け、遠藤が内心を抑え静かに口を開く。「全員が座るまでに30秒オーバーしました」 この後、チャイム着席不徹底に対する一通りの注意が述べられ、ようやく授業が開始された。 S中学校では、授業開始のチャイ