定時先生!第33話 異端
本編目次
第1話 ブラックなんでしょ
「帰りの会の中でやるようなことは、帰りの会の前に生徒が終わらせるようなシステムにしてるよ」
「明日の授業の連絡とか、手紙配付とかは…」
「どれも帰りの会の前に生徒が終わらせるよ。配付物は配付係、明日の授業の連絡は教科係が背面黒板に記入」
「反省コーナーだけで生活・授業・清掃の3つぐらいはありませんか」
「授業の反省は、帰りの会までに学習委員が教科係から授業評価を集約して、帰りの会後に担任にまとめて報告。同じように、生活は風紀委員、清掃は美化委員」
「クラスみんなで反省の共有はしないんですか」
「全体で共有すべきことがあれば朝の会でするよ。だってさ、帰りの会の中でいきなり『1時間目音楽の授業評価Cでした』とか報告されてもさ、俺は国語以外はその場にいないわけだし、教科係の生徒だって皆の前じゃ『○○君がうるさかったです』とか事情説明したくないでしょ」
「たしかに」
「でも、帰りの会を3分以内で終わらせて、残り7分で委員から報告受けるシステムにすれば、生徒個人への指導が必要ならその場ですぐ個別指導できる。きちんと全容を把握した方が良いと思ったら、放課後に担当の先生に事情聴いたうえで、翌朝に必要な指導をする。帰りの会で指導されても、寝て起きたら忘れちゃうかもしれないでしょ。朝注意された方が、その日一日気を付けて行動できるよね」
もっと言えばね、と中島は付け加えた。この残り7分間で生徒は帰り支度ができ、先の追い出し指導と組み合わせれば、帰りの会終了のチャイムをまるでスターターピストルのようにして、半分以上の生徒が一挙に退室するという。
指を折りながら中島が言う。
「生徒により良い指導ができて、追い出ししなくて済んで、すぐ職員室に戻れて、生徒も時間を有効に使えて効率的でしょ。一石四鳥だね」
ここに、中島の特異性が象徴されている。
部活動顧問と学級担任を務めながら、ほとんど定時で働く中島は、職員室においてかなり稀な存在だ。
学校組織がその仕事の第一義に掲げているのは、いかに生徒により良いものを提供するかだ。教育機関である以上当然の基本原理ではあるが、一方で「生徒のために」と際限なく時間をかける文化が出来上がり、今日も職員室の蛍光灯は、夜中の校舎を照らしている。
対して中島は、定時という限られた時間の中で生徒に提供できる最大限を模索している。そのため、尋常一様に行われてきた、部活動指導や帰りの会メニューにメスをいれることに躊躇がない。前例にとらわれずにより効率的な方法を取り入れようとする姿勢の結果、勤務時間を無為に伸ばすことなく周囲と同等以上の仕事をこなしている。
効率の追求は、民間企業などでは当然の思考だが、学校現場は年間を通して毎年同じ予定が繰り返され、時代の変化の風が入りにくい特殊な環境だ。そのため職員室は、往々にして前例踏襲重視であり、中島のような効率重視で変化を厭わない存在は、言ってしまえば異端である。