定時先生!第30話 受け売り
本編目次
第1話 ブラックなんでしょ
ー指導しなくて済むように工夫するのが一番重要な指導力ー
この点において、遠藤が中島に教わったのは、清掃分担と秘密兵器導入だけではない。清掃の意義向上を狙った学級活動もその一つだ。
ある日の6校時目、学活の後半30分ほどを使って、遠藤はそれを試すことにした。
「今から、このクラスの課題の一つに挙げている、清掃に関する活動をします」
遠藤のクラスでは、帰りの会で清掃活動の反省の時間がある。清掃監督によるその日の班の清掃の評価を、班長がクラス全体の前で報告するのだ。全班が評価Aであれば良いのだが、多くの班はB評価、日によってはC評価の班も珍しくなかった。その度に遠藤は、帰りの会の少ない時間を割いて、低評価の原因の報告や、対策の検討などをさせていたのだが、その効果は中々実感できないでいた。
それもあってか、清掃に関する何かが始まることを知った生徒たちからは、落胆の声や、あからさまに不快な表情を浮かべる者などが目立った。
遠藤は、歓迎されない雰囲気を肌で感じながらも、まずは柔らかく切り出した。
「最近、教室掃除では、新しい清掃分担を導入しましたが、皆さんよくやってくれていて、感謝です。その姿をみて、先生は感動すると同時に反省しました。先生が注意しなくても『何を』掃除するかが明確なら、皆さんはしっかり掃除できると」
思わぬ褒め言葉に、生徒の顔が上がった。「何を」からは、中島の受け売りだ。そして、この後の活動も。
「そこで、今回のテーマは、『なんで』掃除するか、です。これより、全員で教室をグチャグチャにします」
ええっ、と生徒達は戸惑った。
「わざと教室を散らかして、その状態で先生の話を聴いてもらいます。その後、片付けた状態で同じ話を聞いてもらい、どちらの方が話を聞けるか体験してみましょう。グチャグチャにすると言いましたが、いいですか、モップなどを壊してはいけません」
笑いと共に視線が集まり、例の二人も嬉しそうだ。
「机の中の物を全て出し机の上に雑に置きます。机と椅子の向きも適当。鞄は床に置いて、留め具も開けて物がはみ出すように。余裕があればロッカーも忘れずに散らかします。制限時間は5分。一番散らかせたかせた人を決めます。はじめ」
片づけなさい、掃除しなさいといった指示は、耳にタコだが、散らかしなさいと指示されたことなどないだろう。生徒たちは喜んで身の回りを散らかし始めた。中には、それでも控えめにしか散らかさない者もいるが、遠藤は近くに歩み寄り、もっと乱雑にして良いと声をかけていく。5分後、教室は見事に散らかった。