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第2章 列島が育む食材 06-01.魚類―海水魚、淡水魚、および、サケ科の魚:特別展「和食 ~日本の自然、人々の知恵~」見聞録 その10

2024年02月09日、私は国立科学博物館を訪れ、一般客として、特別展「和食 ~日本の自然、人々の知恵~」(以下同展)に参加した([1])。

 

日本は南北に長く延びる島国で、オホーツク海に面する北海道には冬に流氷が接岸し、琉球列島とその周辺ではマングローブ林やサンゴ礁が発達している。日本列島の周囲には大陸棚が広がり、親潮や黒潮などの寒流や暖流も様々な生物を運んでいる。内陸部には世界有数の古代湖である琵琶湖もある。この様に多様な水圏環境が存在する日本には4,700種以上もの魚類が分布する(亜種や外来種も含む)。これらの多くは海水魚であるが、汽水・淡水域にも約400種類が生息する。100種を軽く超える日本固有種もいる。これら多様な魚類は、日本に住む人々にとって、古くから重要な食料となってきた。

古くから日本各地で食されてきた魚類は、和食に欠かせない重要な要素になった。和食の特徴として、蛋白源として魚介類がよく利用されること、魚介類の生食があること、および、料理に旨味が活用されていることなどが挙げられるが、これらには魚が欠かせない。

日本人の魚介類の年間消費量が肉類の消費量を下回った2011年までは、永らく魚介類が最も重要な蛋白源であった([2]のp.56-57)。


同展には、食用魚としての海水魚(図10.01,図10.02,図10.03,図10.04,図10.05,図10.06,図10.07,図10.08,図10.09,図10.10,図10.11,図10.12,図10.13,図10.14,図10.15,図10.16,図10.17,図10.18)、淡水魚(図10.19,図10.20,図10.21)、および、サケ科の魚(図10.22,図10.23,図10.24)が展示された([3]:以下の図で示される魚の種名を検索するようお勧めする)。

この中では、ウナギ科とサケ科の魚類は回遊魚である([4])。但し、ビワマスは琵琶湖での回遊生活を2年半~3年半ほど経た後、10~11月になると産卵のために生まれ故郷の河川を遡上する([5])。

図10.01.ヨシキリザメ Prionace glauca メジロザメ メジロザメ科 実物 所蔵:ミュージアムパーク茨城県自然博物館 フカヒレや練り製品などに利用。
図10.02.ハモ Muraenesox cinereus ウナギ目ハモ科 実物 所蔵:国立科学博物館。
図10.03.上から、ネズミザメ Lamna ditropis ネズミザメ目ネズミザメ科 実物 所蔵:ミュージアムパーク茨城県自然博物館 「もうかざめ」ともよばれる。煮付けや フライなどに利用、および、
マアナゴ  Conger myriaster ウナギ目アナゴ科 実物 所蔵:国立科学博物館。
図10.04.上.向かって左から、マイワシ Sardinops melanostictus ニシン目ニシン科 実物 所蔵:国立科学博物館 日本で最も漁獲されている魚種のひとつ、サッパ Sardinella zunasi ニシン目ニシン科 実物 所蔵:ミュージアムパーク茨城県自然博物館、および、ニシン Clupea pallasii ニシン目ニシン科 実物 所蔵:国立科学博物館 卵は数の子として食される。
下.向かって左から、コノシロ Konosirus punctatus ニシン目ニシン科 ミュージアムパーク茨城県自然博物館 江戸前ずしの「こはだ」は本種の幼魚、と、スケトウダラ Gadus chalcogrammus タラ目タラ科 実物 所蔵:国立科学博物館 身は白身フライなどで、卵はたらこや明太子として食される。
図10.05.上.向かって左から、キンメダイ Beryx splendens キンメダイ目キンメダイ科実物 所蔵:水産研究・教育機構 水産大学校、および、サヨリ Hyporhamphus sajori ダツ目サヨリ科 実物 所蔵:ミュージアムパーク茨城県自然博物館。
下.トビウオ Cheilopogon agoo agoo ダツ目トビウオ科 実物 所蔵:ミュージアムパーク茨城県自然博物館 あごだしとして出汁の材料にもなる。、および、
サンマ Cololabis saira ダツ目ダツ科(サンマ科) 実物 所蔵:群馬県立自然史博物館。
図10.06.上.向かって左から、ウスメバル  Sebastes thompsoni  スズキ目メバル科 実物 所蔵:国立科学博物館、ホウボウ Chelidonichthys spinosus スズキ目ホウボウ科 実物 所蔵:国立科学博物館、および、マゴチ Platycephalus sp. スズキ目コチ科 実物 所蔵:ミュージアムパーク茨城県自然博物館。
下.向かって左から、アカムツ Doederleinia berycoides スズキ目ホタルジャコ科 実物 所蔵:水産研究・教育機構 水産大学校 「のどぐろ」 ともよばれる高級魚、アカアマダイ Branchiostegus japonicus スズキ目アマダイ科 実物 所蔵:水産研究・教育機構 水産大学校、および、マアジ Trachurus japonicus スズキ目アジ科 実物 所蔵:国立科学博物館。
図10.07.上.向かって左から、ハマダイ Etelis coruscans スズキ目フエダイ科 実物 所蔵:群馬県立自然史博物館、および、タカサゴ Pterocaesio digramma スズキ目タカサゴ科 実物 所蔵:国立科学博物館 沖縄では「ぐるくん」とよばれ、唐揚げなどで食される。
下.マダイ Pagrus major スズキ目タイ科 実物 所蔵:ミュージアムパーク茨城県自然博物館。
図10.08.向かって左から、シロギス Sillago japonica スズキ目キス科 実物 所蔵:国立科学博物館、および、キュウセン Parajulis poecilopterus スズキ目ベラ科 実物 所蔵:国立科学博物館 瀬戸内海沿岸でよく食される。
図10.09.上.向かって左から、ホッケ Pleurogrammus azonus スズキアイナメ科 実物 所蔵:国立科学博物館、および、ハタハタ Arctoscopus japonicus スズキ目ハタハタ科 実物 所蔵:国立科学博物館。
下.ギンポ Pholis nebulosa スズキ目ニシキギンポ科 実物 所蔵:ミュージアムパーク茨城県自然博物館 江戸前天ぷらの高級魚。
図10.10.上.向かって左から、マハゼ Acanthogobius flavimanus スズキ目ハゼ科 実物 所蔵:国立科学博物館、および、アカカマス Sphyraena pinguis スズキ目カマス科 実物 所蔵:国立科学博物館。
下.トラフグ Takifugu rubripes フグ目フグ科 実物 所蔵:水産研究・教育機構 水産大学校。
図10.11.向かって左から、カツオ Katsuwonus pelamis スズキ目サバ科 実物 所蔵:国立科学博物館、および、
カワハギ Stephanolepis cirrhifer フグ目カワハギ科 実物 所蔵:国立科学博物館。
図10.12.上.タチウオ Trichiurus lepturus スズキ目タチウオ科 実物 所蔵:国立科学博物館。
中.向かって左から、マサバ Scomber japonicus スズキ目サバ科 実物 所蔵:国立科学博物館、および、ヒラソウダ Auxis thazard thazard スズキ目サバ科 実物 所蔵:ミュージアムパーク茨城県自然博物館 宗田節としても利用される。
下.サワラ Scomberomorus niphonius スズキ目サバ科 実物 所蔵:国立科学博物館。
図10.13.スズキ(セイゴ→フッコ→スズキ) Lateolabrax japonicus スズキ目スズキ科 実物 所蔵:国立科学博物館 体の大きさによって呼び名が変わる出世魚。
図10.14.ブリ(ワカシ→イナダ→ワラサ→ブリ) Seriola quinqueradiata スズキ目アジ科 実物 所蔵:国立科学博物館。
日本で最も養殖されている魚種。
体の大きさによって呼び名が変わる出世魚。
図10.15.マンボウ Mola mola フグ目マンボウ科 実物 所蔵:ミュージアムパーク茨城県自然博物館 腸も食用となる。
図10.16.ヒラメ。 
図10.17.向かって左から、マツカワとメイタガレイ。
図10.18.クロウシノシタ。
図10.19.上から、ニホンウナギ Anguilla japonica ウナギ目ウナギ科 実物 所蔵:国立科学博物館、 および、
コイ Cyprinus carpio コイ目コイ科 実物 所蔵:群馬県立自然史博物館。
日本各地にいるコイはユーラシア大陸由来の外来種であるが、古くから食用とされてきた。
図10.20.上から、ギンブナ Carassius sp. コイ目コイ科 実物 所蔵:群馬県立自然史博物館 甘露煮などで食される。
および、ウグイ Pseudaspius hakonensis コイ目コイ科(ウグイ科) 実物 所蔵:国立科学博物館。
図10.21.ナマズ Silurus asotus ナマズ目ナマズ科 実物 所蔵:群馬県立自然史博物館、および、
アユ Plecoglossus altivelis altivelis サケ目アユ科 実物 所蔵:国立科学博物館。
図10.22.上.向かって左から、サケ  Oncorhynchus keta サケ目サケ科 実物 所蔵:国立科学博物館、および、ギンザケ Oncorhynchus kisutch  サケ目サケ科 実物 所蔵:群馬県立自然史博物館 北海道でまれに漁獲されるが、日本での流通はほぼ養殖魚。
下.向かって左から、ヤマメ Oncorhynchus masou masou サケ目サケ科 実物 所蔵:ミュージアムパーク茨城県自然博物館 生物学的にはサクラマスと同種、サクラマス Oncorhynchus masou masou サケ目サケ科 実物 所蔵:ミュージアムパーク茨城県自然博物館 生物学的にはヤマメと同種、および、アマゴ Oncorhynchus masou ishikawae サケ目サケ科 実物 所蔵:国立科学博物館 生物学的にはサツキマスと同亜種。
図10.23.向かって左から、ビワマス Oncorhynchus sp. サケ目サケ科 実物 所蔵:国立科学博物館 琵琶湖固有種、
ヒメマス Oncorhynchus nerka 実物 所蔵:国立科学博物館 湖沼で生活するタイプのベニザケ、および、
ニジマス Oncorhynchus mykiss サケ目サケ科 実物 所蔵:国立科学博物館 外来種。日本では北海道などの一部地域で定着。原産地はカムチャッカ半島、アラ スカからカリフォルニア。
図10.24.イワナ Salvelinus leucomaenis サケ目サケ科 実物 所蔵:国立科学博物館 エゾイワナやヤマトイワナの亜種がいる、および、
タイセイヨウサケ Salmo salar  サケ目サケ科 実物 所蔵:国立科学博物館 食用に輸入され、「アトランティック サーモン」ともよばれる。 原産地は北大西洋と北極海。


これらの魚類から、日本近海は種多様性が極めて高い生物多様性のホットスポットである、言い換えれば、豊饒の海であることを痛感する([6],[7])。なお、このことは、日本の淡水生態系にも当てはまる([8])。

しかし、人間活動による負の影響を受けて、生物多様性は今、深刻な危機に瀕している。特に淡水生態系の生物多様性の損失は、陸域生態系・海洋生態系と比べて、突出して著しいことが知られている(8)。


だからこそ、和食に欠かせない魚類を守るためにも、優れた自然環境を有する地域を核として、これらを有機的に繋ぐことにより、生物の生息・生育空間の繫がりや適切な配置を確保する生態系ネットワーク(エコロジカル・ネットワーク)の形成を推進するとともに、重要地域の保全や自然再生に取り組み、私達の暮らしを支える森・里・川・海のつながりを確保することが重要である([9])。

関連記事



参考文献

[1] 株式会社 朝日新聞社.“特別展「和食 ~日本の自然、人々の知恵~」 ホームページ”.https://washoku2023.exhibit.jp/,(参照2025年01月05日).

[2] 特別展「和食 ~日本の自然、人々の知恵~」ガイドブック,168 p.

[3] ぼうずコンニャク株式会社.“ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑 ホームページ”.https://www.zukan-bouz.com/,(参照2025年01月05日).

[4] 国立大学法人 東京大学 大学院 教育学研究科 附属海洋教育センター,公益財団法人 日本財団 海洋教育基盤研究プロジェクト.“鮭と鰻のWEB図鑑 ホームページ”.https://salmoneel.com/,(参照2025年01月05日).

[5] 滋賀県 農政水産部 みらいの農業振興課.“ビワマス”.滋賀のおいしいコレクション トップページ.産品.https://shigaquo.jp/foods/4826.html,(参照2025年01月05日).

[6] 国立研究開発法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC).“日本近海は生物多様性のホットスポット~全海洋生物種数の14.6%(注1)が分布~”.海洋研究開発機構 トップページ.JAMSTECについて.プレスリリース.2010年08月03日.https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20100803/,(参照2025年01月05日).

[7] 国立研究開発法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC).“日本のまわりの海は、生き物がいっぱい!”.海洋研究開発機構 トップページ.キッズ.知ろう!記者に発表した最新研究.2010年08月03日.https://www.jamstec.go.jp/j/kids/press_release/20100803/,(参照2025年01月05日).

[8] 国立研究開発法人 国立環境研究所 福島地域協働研究拠点.“河川が抱く重層的な多様性 —水辺の自然に寄り添い、未来につなぐために—”.FRECC+ ホームページ.研究紹介.2024年04月30日.https://www.nies.go.jp/fukushima/magazine/research/202404.html,(参照2025年01月05日).

[9] 環境省.“第4節 森・里・川・海のつながりを確保する取組”.環境省 ホームページ.白書・統計.環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書.これまでの白書.平成30年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書.目次.第2章 生物多様性の保全及び持続可能な利用〜豊かな自然共生社会の実現に向けて〜.https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h30/html/hj18020204.html,(参照2025年01月05日).

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