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第2章 列島が育む食材 06-02.魚類―マグロの仲間:特別展「和食 ~日本の自然、人々の知恵~」見聞録 その11

2024年02月09日、私は国立科学博物館を訪れ、一般客として、特別展「和食 ~日本の自然、人々の知恵~」(以下同展)に参加した([1])。

 

マグロは和食の代名詞とも言える寿司や刺し身のネタとして欠かせない(図11.01)。

マグロは通常サバ科マグロ属の魚のことで、通常、クロマグロ(図11.02,図11.03)、タイセイヨウクロマグロ(図11.04)、ミナミマグロ(図11.05)、メバチ(図11.06)、キハダ(図11.03)、ビンナガ(図11.07)、コシナガ(図11.08)、および、クロヒレマグロ(別名タイセイヨウマグロ)(図11.09)の8種が世界にいる。このうち、クロマグロ、メバチ、キハダ、ビンナガ、および、コシナガが日本近海にも分布する。

マグロは古くから食されてきたが、江戸時代末期以降に食材として存在感を高めていった。江戸時代末期ににぎり寿司のネタとして使われ始め、保冷技術の発達と共に、戦前、戦後、そして、高度経済成長期と、徐々に寿司や刺し身のネタの筆頭格になっていった([2]のp.61,[3]:これらの図で示される魚の種名を検索するようお勧めする)。

図11.01.マグロの仲間。
図11.02.クロマグロ 日本最大級 Thunnus orientalis スズキ目サバ科 模型 模型制作:アップ・アート。
1986年に鹿児島県種子島沖で漁獲。
築地市場で取引されたなかで過去最大級(体重496kg、 隊長 2.88m、胴回り2.36m)。
347万円(1kg当たり7,000円)の値がついた。 (データ提供: 東京都中央卸売市場)
図11.03.上から、クロマグロ Thunnus orientalis スズキ目サバ科 模型 模型制作:アップ・アート。
最も美味しいマグロとされ、 高級食材として刺身やすしに利用される。 短い胸鰭が特徴。
、および、
キハダ Thunnus albacares スズキ目サバ科 模型 模型制作:アップ・アート。
さっぱりした赤身が関西などで人気。漁獲量が多く、缶詰などにも利用される。
体と鰭がやや黄色く、体長1mくらいから第2背鰭と臀鰭が伸長してくる。
図11.04.タイセイヨウクロマグロ Thunnus thynnus スズキ目サバ科 模型 模型制作:アップ・アート。
大西洋に分布する。以前はクロマグロ と同種とされていた。味や肉質などは クロマグロと同等。クロマグロより少し 大きく成長する。 
図11.05.ミナミマグロ Thunnus maccoyii スズキ目サバ科 模型 模型制作:アップ・アート。
南半球に分布する。日本にも多く輸入されており、すしや刺身に利用される。
胸鰭が短く、尾柄の隆起部が黄色い。 
図11.06.メバチ Thunnus obesus スズキ目サバ科 模型 模型制作:アップ・アート。
刺身やすしネタとして東日本などで好まれている。大きい目と長い胸鰭が特徴。
図11.07.ビンナガ Thunnus albacares スズキ目サバ科 模型 模型制作:アップ・アート。  主に缶詰や生節として利用されてきたが、近年は刺身としても利用される。
胸鰭が長く、尾鰭の後縁が白い。
図11.08.コシナガ Thunnus tonggol スズキ目サバ科 模型 模型制作:アップ・アート。 小〜中型の個体では、味がやや淡泊であり、刺身などには向かないとされる。
クロマグロに似るが、胸鰭が少し長く、尾柄も少し細い。 
図11.09.クロヒレマグロ Thunnus atlanticus スズキ目サバ科 模型 模型制作:アップ・アート。
低~中緯度の西大西洋に分布する。漁獲量は少なく、現地では缶詰などに利用される。
黒い小離鰭が特徴。


マグロは日本だけでなく、世界的な魚食文化の広がりにともない、資源量の減少が問題となっている。特に、本マグロと呼ばれるクロマグロは資源量の減少が深刻である。国際自然保護連合 (IUCN)が作成する絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト「レッドリスト」ではタイセイヨウクロマグロが絶滅危惧IB類、太平洋クロマグロは絶滅危惧II類と、絶滅危惧種に指定されていた時期もあった。

クロマグロはその食味のよさから人気が高く、価格も他のマグロ類に比べ高値で取り引きされる。そのため乱獲が行われ急激に減少した。さらに、成魚だけではなく養殖を目的に幼魚の乱獲が行われたことが資源数減少に拍車をかけた。

魚の養殖方法として養殖で育てた親魚の産んだ卵から育てる完全養殖もあるが、マグロの完全養殖は非常に難しく、高い技術が求められる。そのため天然の幼魚を捕獲して脂の乗ったマグロに育て上げる「畜養」という方法での養殖が一般的だったため、幼魚の乱獲が行われた。

一時、クロマグロは絶滅危惧種にまで指定されていたが、漁獲制限が奏功し、資源は回復しつつある。現在はタイセイヨウクロマグロが軽度懸念、クロマグロは準絶滅危惧へと警戒レベルが引き下げられている。さらに、2024年07月頃に行われるクロマグロの資源管理についての国際会議(WCPFC北小委員会-IATTC合同作業部会)では、資源回復目標の達成が確認されれば漁獲枠を増枠することも検討されている([4])。


だからこそ、私は日本人の食生活を守るため、かつ、海の生態系を守るためにも、私はクロマグロ、ブリ、および、ウナギの人工種苗を使った完全養殖の実現を期待している([5][6])。



参考文献

[1] 株式会社 朝日新聞社.“特別展「和食 ~日本の自然、人々の知恵~」 ホームページ”.https://washoku2023.exhibit.jp/,(参照2025年01月15日).

[2] 特別展「和食 ~日本の自然、人々の知恵~」ガイドブック,168 p.

[3] ぼうずコンニャク株式会社.“ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑 ホームページ”.https://www.zukan-bouz.com/,(参照2025年01月15日).

[4] 日本テクノ株式会社.“限りある水産資源を持続可能に|5月2日は「世界まぐろデー」”.Eco News ホームページ.記事.サステナブル ノート.2024年04月15日.https://econews.jp/column/sustainable/11282/#02,(参照2025年01月15日).

[5] マルハニチロ株式会社.“もっとわかるプロジェクトストーリー クロマグロ完全養殖プロジェクト 育めば「資源」! 次代の子どもたちへ届けたい”.マルハニチロ ホームページ.知る・楽しむ.もっとわかるマルハニチロ.https://www.maruha-nichiro.co.jp/contents/more/story002.html,(参照2025年01月15日).

[6] 株式会社 日経BP.“なぜ「近大マグロ」の実績が減ったのか 完全養殖技術が拓く魚食産業の未来(前編)”.未来コトハジメ ホームページ.食の未来.2023年09月19日.https://project.nikkeibp.co.jp/mirakoto/atcl/food/h_vol91/,(参照2025年01月15日).

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