📗風太・保護者百景「リモコン・チルドレン」

　長年塾の講師をしていたので、多くの生徒と出会った。そして、その生徒の後ろには必ず保護者がいる。
　今でも、記憶に残っているお父さん・お母さんのことを書こうと思う。

携帯でリモートコントロールするお母さん

　小４受験科の授業が終わり、自習に残る子以外は、路上駐車で親が待つ自動車へ向かった。M君はお父さんの仕事の関係で、お迎えが遅くなるらしく、２時間ほど塾で自習をしてから帰る。

　まだスマホがない昔の話だ。携帯電話で母親に電話をしている。聞こうと思わなくても内容が伝わる。

　「おかあさん、今日何するの？」「ちょっと待って、問題集出すから。」「何ページ？４５ページから４７ページでいいの？うん、分かった。」

　どうやら、今日自習で勉強するところの指示を受けているようだ。
　M君は小柄で明るく、スーパーが付くほどの優秀生だ。
　おおらかに育っているので、放任されているように見えるが、勉強に関しては主に携帯リモコンで操縦されているようだ。

　１時間ほどして、また家に電話をかけている。「終わったけど、どうするの？」「何か所か間違ったけど・・・。えーと、４５ページの４番と、４６ページの２と５番。」「わかった、風太先生、暇そうだから教えてもらう。」

　別に暇ではないのだが、間違えた問題を教えることになった。実は、彼ぐらいの能力があれば、間違えた問題はほぼ自分で解決できる。案の定、簡単なヒントを与えてみると、あっという間に、お母さんの指示を済ませ、私にお礼を言うと、家から持ってきたコロコロコミックを読みだした。

　M君としてもこれ以上、コントロールされる気はないらしい。

　たまたま、その当時、塾内で保護者のためのパソコン教室を開いていて、その生徒でもあったM君のお母さんのご依頼で、パソコンの調整に、ご自宅にお邪魔したことがある。

　ご主人は一流企業のお偉いさんらしい。閑静な住宅街の一角にある、立派な家に伺った。

　私がパソコンのチェックをしている間、塾の個別面談などではあまり話さない、ご家庭のこと、ご主人のことなど、いろいろお話を伺った。

　ちょっと、話が切れた時、母さんがぽつんと「私の人生これで良かったんですよね・・・。」

　何も返す言葉が見つからなかったが、その後、何と言いたかったのだろうと、お母さんの横顔を見てしまった。

　M君のお母さんは今でいう「ヘリコプター・ペアレンツ」に属するのかもしれない。そして、そのような保護者の場合、子どもに悪い影響が出ることが多いのは事実だ。しかし、M君は明るく育っているし、あまりねじ曲がっているようにも見えない。もしかすると、M君はお母さんを「秘書」だと思っているのかもしれない。

　「君、今日の予定を教えてくれたまえ。」
　
 take_futa（竹風太）

-------------------------------------------------------------------------------

💛「ECSワークショップ」という会社のような名前の個人ブログを、教育をテーマに、開いています。覗いてみてくださいね。⏬😀