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雨はきっと雨のまま
どうしても最近気持ちが落ちている。
そしてやっぱり疲れてもいる。肉体労働をしているので、身体的な疲れは当然の事として、休日家から一歩も出ずに過ごすというのではなんともし難い心の疲れがあった。
だから今日は思い切ってちょっとした小旅行に出た。誰にも言わず、誰も知らない、そして自分さえも全く知らない土地に来てみたかった。
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自分すら何も知らない。なんて前言撤回。
来てみた事はないが全く事前知識がない場所ではない。前の恋人と行きたい場所リストを作った時に挙がっていた場所、多治見市モザイクタイルミュージアム。彼女から行きたいと言われていた場所で、リストの中では上位。好きなもので観たかったもの。
そんな所に別れてから行くなんて傷を抉りに抉る行為だというのは明らかなのだが、不思議とそんな気持ちも起きなかった。付き合ってた時に一緒に行けてればなんて、想像してはみたがやっぱり何かぎこちなかっただろうな、と思い直してすぐに心のページを閉じた。今の自分は思い出や綺麗なものである程度治すことは出来るけど、2人だったら無理だった。欲しかった時間はそれじゃない。
だから今日の旅も自分の為だけでいい。難しい理由なんてつけなくていい。
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"一人"だからと元恋人と付き合う前後、美術館だとか動物園だとか水族館だとか、そういった"楽しみ"を自分から避けていた。
自分の世界を形作る事にも、伝え、表現することにも飽きていた。結局東京にいて、職場やそれに付随するような小さな人間関係の輪の中に居続けるのなら、よくありがちな漫画、アニメの話題だけ押さえておけばいい。敢えて他のことに興味を持つことなく、ありきたりな無趣味な人として生きればいい。ずっとそう思っていた。
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自分の中で何かがはっきりと変わったんだろうなと思う。それは一つ一つが記憶であり思い出。それら一つ一つ全てが異なっていて何もない自分から見るのと、思い出を通して見るのとでは全く違う。
恋人と別れてから色々な所を訪れているが、きっとこれもまだ自分の一部でしかない。ちゃんと好きではないし、詳しくもない。ただ少しずつ感情が動いているのを感じる。人である事を感じる。
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感情を動かせば、心が動く。
そして心を動かせば、自分自身の本当の心情が分かる。どれだけ壊れているのか、どれだけのものが必要なのか、分かる。
この2年の間に、生活も経済も大分改善した。自分自身の全てのパーツを挿げ替えてやろうという気持ちで毎日過ごしてきたが、やはり最後に治すべきものは自分の心だ。そしてもう、心のない、感情の動かない長い長い人生をそのまま生きていくのは、将来買う墓石の為に生きているのと同じことだと、分かった。
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帰り道、バスを待っている中で激しい通り雨に襲われた。以前の私であれば気にせず降られただろうが、少し雨宿りをして、止む気配が無かったので小雨の中を飛び出した。
やがて雨は止み、雨後の風が辺りを包んだ。土の匂い、雨の匂い。
誰かと共に居たら、これが心地よいとはならなかったかもな、と思いつつ煙草を燻らせる。
どんな一日でも、どんな人生でも雨は降る。
そしてやはり、雨は雨のまま。
その雨に想いを付ける。その心がまたゆっくりと息を吹き返していた。
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