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教#006|『父親の経済力』と『母親の狂気』と『中庸のspirit』~「漫画:二月の勝者」を読んで①~(たかやんnote)

 たかやんノートを読んでくれた知り合いが、「二月の勝者」と云う中学受験をテーマにした漫画を勧めてくれました。トリマ(取り敢えず)、1、2巻を読みました。私は、学生時代、某大手進学教室(Y進学教室)で、バイトをしていました。あっちこっちに教室はありましたが、私がバイトをしていたのは、中野の本部校舎です。私が学生だったのは、40年以上前です。その頃も、開成・麻布・武蔵は男子の、桜蔭・女子学院・双葉は女子の御三家でした。御三家の上に筑駒は位置していました。40年前も、今も、上位層のブランド力は変わってません。

 Y進学教室で、講師をしていたわけではありません。講師は、プロの先生方です。中野の本部校舎で教えていたのは、King of プロと言っても過言ではないカリスマ講師でした。我々、学生の主な業務は、試験監督です。午前中に各教科の試験をやって、午後、プロの講師が解説します。我々は、試験監督をしたり、連絡事項を伝えたり、配布物を配ったり、登下校の指導をしたり、つまり担任が行う雑務全般です。生徒は、我々のことを監督の先生と言ってました。

 試験監督の先生の所に、相談に来る生徒もいました。イケメンの先生の所に、女の子が相談に来ると云う傾向は、ありました。本部から特に細かい注意とか指導とかはありませんでした。試験監督の学生は信頼されていました。バイト先としては、割合、居心地の良い空間でした。ただ、日曜日と、長期休暇の時しか仕事がないので、バイトでお金を稼ぎたい人には、不向きです。バイト仲間は、教員志望や、子供が好きな学生が多かったと記憶しています。

 たまに、四谷にある教室に応援に行きました。四谷教室は慶応や早稲田の付属校を狙う生徒が、多かったと思います。成績別に教室割りがされていて、中野の本部校舎にもっとも優秀な生徒が集まっていました。四谷は学力的にワンランク落ちます。中野の教室には、確かにこの子はできそうだなと、外側から見ていてもはっきり解るオーラを放っているboy & girlたちが何人かいました。ひとつの教室に2、3人います。このものすごく優秀な2、3人がいることで、教室の緊張感が高まりました。四谷の教室には、この図抜けた2、3人がいませんでした。中野教室に通っていた生徒の半数くらいは、おそらくその後、東大に進学したと推定できます。超すぐれた2、3人も、もちろん東大です。が、今でしたら、ハーバードやエール、MIT(マサチューセッツ工科大学)やCIT(カリファルニア工科大学)に進学するんだろうと想像できます。Y進学教室のバイトをして、世の中には普通人とはかけ離れた天才とも言える人たちが、確実に存在していると云うことを、はっきりと認識しました。我々、二十歳を越えた学生たちは、12歳のこの天才たちを、素直にrespectしていました。

「二月の勝者」は、そんな天才たちが、熱いバトルをするお話ではなく、どちらかと云うと普通の生徒たちが、努力や根性、家族や講師の愛で、合格を勝ち取る、スポ根的な王道漫画だろうと、2巻目まで読んで、勝手に想像しました。

「二月の勝者」の巻頭のオープニング(週刊ビッグコミックスピリッツでは、このオープニングは、カラーページだったんだろうと推定できます)で、「君達が合格できたのは『父親の経済力』、そして『母親の狂気』だと、ぶちかましています。文句のつけようのない、超ド級の熱と迫力のある「つかみ」です。この強烈なフレーズでつかんでおいて、読者を受験バトルの世界に、引き入れて行きます。

 受験に関して言えば、父親の「経済力」は、絶対に必要です。ちなみに、私は、小学校6年の時、担任に中学受験を勧められました。私の故郷の高知県は、地方では珍しく(今はもう珍しくはなくて普通の現象ですが)県立高校よりも、私立高校の方が、学力の高い県でした。ですから、優秀な生徒は、私立の土佐中、学芸中を受験して、進学します。ウチは、single motherで、なおかつ母親の仕事は、水商売です。水商売の母子家庭の息子は、地元の荒れた(市内で一番、荒れていました)N中学に素直に入学するのが、当たり前の常識です。母親が、学校に行くとかは考えられませんから、担任が、家庭訪問か何かの折に、中学受験を勧めたんだろうと思います。母親は、あの先生、頭がおかしいと、言ってました。それを聞いた私も、即座に同意しました。土佐中学と云うのは、私の地元ですと、網元の賢い息子が行く学校です。祭りの夜に、他校の番張ってる小6と出会ったら、即座にバトルしてしまう乱暴な子供は、地元のN中学校に進学して、荒れている中学ライフを、enjoyすべきなんです。

 高知県庁で、仕事を始めて、Nくんと云う仲のいい友達ができました。Nくんも、彼の二人の妹も、弟さんも、土佐中、土佐高で学んだエリートです。彼の地元では、秀才四兄弟と言われていたそうです。県庁所在地の高知から、車で二時間くらい走った安芸市に彼の実家はありました。土蔵のある旧家です。昔の地主です。残念ながら地主は、戦後の農地改革で土地を失いましたから、財力は落ちていますが、それでも、地元の素封家で、お父さんは名士でした。ちなみに、Nくんのすぐ下の妹は、私立の医学部に進んだお医者さんです。Nくんのような財力のあるファミリーを、はるかに凌ぐものすごくスケールの大きいファミリーが、きっと首都圏には存在しているんです。

 受験に関して、「経済力」と云うフレーズを使うとすると、経済力は、can’t ~too、いくらあっても、あり過ぎて困ると云うことはないと、言えると思います。ただ、経済力があり過ぎることが、イコール、幸せだとは限りません。年収がある一定レベルを超えると、幸福度は低減すると云うレポートを見たことがあります。

「母親の狂気」は、まあこれはヤバいです。「六分の侠気、四分の熱」の「侠気」ではなく、crazyの方の「狂気」です。「狂気」と云うのは、ある意味、普遍的です。「Joker」の狂気にだって、通じてしまいます。ドガが描いた緑のアブサンが、生(き)「狂気」だとすると、2パーセント以下のアルコール度数にまで薄めて、淡いペパーミント色くらいになったそれを、どこかで良識が見守りながら、飲み干す、そういう注意深さで、狂気を扱わなければいけません。漫画のテーマに文句をつけるつもりもないんですが、「狂気」は不要です。必要なのは、常識、良識と云う中庸のspiritです。ただ、天才を作るためには「狂気」が必要なのかもしれませんが(アレクサンドロス大王の母親とかには、かなりヤバみの狂気を感じます)おそらくそれは、検証しぬくいものなので、連載漫画のコンセプトとしては、扱いぬくい不向きなものだと思います。トップページには、眼鏡をかけている人が7人、かけてない人が7人。半々。実際は、もっと眼鏡派が多いと思います。が、小学生で、もうすでにコンタクトを使用しているのかもしれません。このヘンの世間のことは、疎くてよく解りません。

 強烈なコンセプトをぶちかました後、五角形のけしゴム・鉛筆で合格、カツのサンドで勝つなど、オヤジギャグを振りまいています。で、必勝のハチマキを巻いて、「絶対合格おーっ」とかと、シュプレヒコールをして、士気を高めます。ベタです。ベタ過ぎます。中堅高校では、これはできません。が、こういうベタなことを、平気でやれる図太いメンタリティーは、やっぱりあった方がいいです。

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